研究課題/領域番号 |
19K01575
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研究機関 | 兵庫県立大学 |
研究代表者 |
松山 直樹 兵庫県立大学, 国際商経学部, 准教授 (80583161)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | マーシャル / クールノー / 天文学 / 潮汐学 / 公正賃金 |
研究実績の概要 |
2020年度の研究計画は、経済学への解析的手法の導入について、19世紀前半に活躍したフランスのA.A.クールノーから19世紀後半に理論経済学を体系化したイギリスのアルフレッド・マーシャルの初期の経済学への理論的影響を明示することにあった。同時に、19世紀イングランドの科学方法論としてW.ヒューエルの著作について文献考証を行った。 これまでの一次資料の調査・研究を通じて、クールノーの解析的手法がマーシャル経済学に直接的に導入されたとする先行諸研究とは異なる解釈の必要性が生じていた。その点を踏まえて、2020年度の本研究プロジェクトでは、(1)クールノー経済学における基礎的な諸概念が天文学によって基礎付けられていること、(2)そのようなクールノー経済学における天文学的基礎付けがラプラスやハーシェルといった天文学者の研究によって提供されていたこと、そして(3)クールノーは解析的手法の経済分析への適用範囲を限定していたとする基礎的な研究を行った。さらにそのような基礎的な考察を踏まえて、(4)マーシャルはクールノーから天文学的に基礎付けられた連続性の概念等について学んだものの、それらを直接的に超長期的な経済現象の分析には適用しなかったこと、(5)マーシャルは、ヒューエルやJ.S.ミルによって議論された潮汐学を参考にするかたちで、超長期における経済現象を理論的に把握することに注力し、(6)結果として、天文学等の精密科学としてのアプローチではなく、潮汐学のアプローチによって有機的成長を実現する条件である公正な賃金率を理論的に基礎づけたことを特定し、投稿論文にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2020年度は収集済みの一次資料や文献に基づいて研究を展開した。具体的には「経済学への解析的手法の導入」をめぐって、本研究プロジェクトでは二つの課題を具体的な研究成果として発表することを目指しているが、2020年度にはまず「マーシャルとクールノーの経済学におけるの科学的性格の関係」について論文として議論をまとめて英文雑誌に投稿した。もう一つの課題「マーシャルとジェンキンの理論的な影響関係」については基礎的な文献や論文等の収集を進めている段階にある。とりわけ後者は19世紀イングランドの科学的方法論(特にヒューエルの科学方法論)に密接に関連するものである。また、本研究を遂行するなかで、マーシャルの考案した需給均衡理論が同時代にいかにして受容されたのかという研究テーマについても論文にまとめて書籍の一部として発表した。尚、Covid-19の影響により上記の研究報告はキャンセルせざるを得なかった。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、マーシャルの経済理論ならびに経済学方法論に対するフリーミング・ジェンキンの科学研究の理論的影響について研究を展開していく。特にヒューエルの科学方法論に基づくかたちで19世紀後半における経済学(ないし道徳科学)における演繹的手法の有効性等についても文献考証を進め、2023年度には投稿論文として議論をまとめられるように研究を進めていく。他方で、本研究プロジェクトの三つ目の課題である「需給均衡理論の成立に関わった研究者たちの交流」についても研究を開始し、基本文献の収集・調査を実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
Covid-19によって研究会や学会報告等をキャンセルし研究計画に変更が生じたため次年度使用額が発生した。2021年度より新たに着手する研究課題があるので研究計画の変更にも柔軟に対応し、最終年度に向けて着実に研究課題に取り組んでいく。
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