研究課題/領域番号 |
19K01579
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研究機関 | 大月短期大学 |
研究代表者 |
伊藤 誠一郎 大月短期大学, 経済科, 教授(移行) (20255582)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 初期近代 / イギリス / 銀行 |
研究実績の概要 |
第一に、昨年度に続き、チャールズ・ダヴナントの主著『公収入交易論』(1698年)以降、1714年までの、諸銀行案のパンフレット類の調査をし、研究ノートの作成をした。コロナ禍が続き英国への資料調査がかなわなかったため、これまでに収集したpdf化された貴重書、英国の図書館で書きうつしたり撮影してきた手稿類、オンラインで利用できる資料(British History Onlineなど)などを利用しながら進めた。当初想定していたよりも、本研究のテーマと本質的にかかわる資料が多く、ダヴナントやジョン・ローなどすでによく知られた資料と同等の注意をもって調査する必要を感じ、そのようにした。年度終わりころに着手した、1714年のアメリカ植民地ボストンでの土地銀行設立をめぐるいくつかの資料からは、本国ブリテンのこれまでの土地銀行論争の影響が強くみられ、本国における銀行諸企画を論ずるためにも、大いに参考になるものであった。第二に、当初2020年の日本英文学会で開催される予定であったがキャンセルになったシンポジウムで報告する予定であった原稿を、2021年5月開催の同学会でのシンポジウムで、内容を研究の進捗状況に合わせて改定したものにして報告した。これは、「「信用」は「貨幣」のあとにくるのか?」というタイトルのもと、本研究の成果としてまとめて刊行する計画の著作の実質的な要約となるものであり、それゆえに、それまでの1年間の研究の進捗状況を反映させたものとした。ここでは、英文学や歴史などシンポジウム参加の他分野の報告者との事前のオンライン勉強会なども含め、本研究にとっても大いに参考となる視点、情報が得られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の大枠としては概ね順調に進んではいるが、研究の進展とともに重要な補足して調査すべき対象となる資料が増え、また、コロナ禍の影響もありとくに手稿類などイギリスの現地にいって収集しなければならない資料が十分にそろっていない。本研究の骨子は、1690年代の土地銀行論争、世紀末のチャールズ・ダヴナントの信用論、18世紀初頭のジョン・ローの土地銀行論、ジェームス・スチュアートとアダム・スミスの信用論の研究にあり、そこに、信用の制度的安定性を求める議論が一貫してあったことを示すことを目的としているが、土地銀行論争については、本研究を始めるまでに複数の学会発表の際の原稿があり、ダヴナントに関してはも2019年のオーストラリア経済学史学会での報告のための原稿がある。しかし、2020年3月に予定された国際スミス学会は中止となり、その際報告予定であったスチュアートとスミスの信用論に関する原稿は作成したが、まだ未発表のままであり、また2020年5月に予定されていたがやはり中止となったヨーロッパ経済思想史学会で報告予定であったジョン・ローの土地銀行論については報告原稿のための準備ノートを作成したところで作業が止まっている。こうした研究の滞りは、原稿をより充実したものにするために必要と考えられる資料の存在が次々と見つかったため、この2年間コロナ禍において、さしあたりこれまで収集済みであった手元にある資料のなかから必要なものを調査し、研究ノートづくりに専念してきたためである。こうした作業を続け、またそれを踏まえ、これまで一応完成させた原稿、またノートの段階にある原稿を、新たな資料の収集とその調査によってより完成度の高いものにしていく必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
上記のような現状を踏まえ、2022年度は、第一に、コロナ禍に滞っていた資料収集を行い、第二に、その調査を踏まえ、これまでに書いた学会報告原稿の内容を拡充させ、また、今後著作の完成へ向けた必要な作業として、土地銀行論争、ダヴナントの信用論、ローの土地銀行論、スチュアートとスミスの信用論という骨格となる議論のあいだを縫う、しかし、これらの議論を密接につなげる多くの銀行企画書などの資料を調査していく。また、このような著作のいわばパーツを作成していく一方で、その全体としての主張を明確にし、研究史のなかでその意義を見出すために、2021年の日本英文学会で「「信用」は「貨幣」のあとにくるのか?」という報告を行ったが、その後2022年4月に行われた経済学史研究会での渡辺恵一氏の報告「ミッチェル=イネスのスミス貨幣論解釈について」への討論者としての準備のなかで、イネスの論文、またその関連で楊枝嗣朗氏の『歴史の中の貨幣』、さらにはG.A.エプシュタインの『MMTは何が間違いなのか?』などのような貨幣に関する幅広い論考にふれ、本研究が貨幣・信用の歴史研究としてどのような意義をもつのかについて深く考えるヒントを得た。これらを踏まえて、さらに著作構想を進化させたものを差し当たり、2022年7月に開催予定の日本イギリス哲学会の関東部会で報告し、そこでの議論を踏まえて、さらに資料収集・調査を進めていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により、資料収集のための英国への渡航、国外での国際学会での研究発表ができなかったので、これらに使用するはずであった研究費を持ち越して、可能になった時期に利用するため。
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