最終年度には、本研究及びそれにかかわるこれまでに蓄積してきた研究成果をまとめ、「18世紀イギリスにおける ‘credit’の論じられ方‐思慮深さと制度‐」として、日本イギリス哲学会関東部会第109回研究例会で7月に報告した。そこでは、従来の18世紀ブリテンの金融史・金融理論史研究によって強調されてきたような、紙券信用の量的拡大とそれにともなう危機という視点だけではなく、こうした問題をめぐる議論の根底には、信用制度の組織、さらにはそれに関わる諸個人の道徳性という視点があったことを明らかにした。また本研究のなかでも、アダム・スミスとジェームス・ステゥアートの信用論に関する考察を、‘Adam Smith on banking’としてまとめ、9月にオーストラリア経済思想史学会で報告した。さらに、日本イギリス哲学会からの依頼により、学会展望論文を書くことになり、この機会を利用して、本研究の歴史研究としての主張・議論が、昨今の金融理論研究とどのようなかかわりがあるのかを検討し、「学会展望 貨幣・信用について今語られていること、昔語られていたこと」としてまとめ、『イギリス哲学研究』第46号(3月刊行)に掲載された。本研究全体としては、17世紀末から18世紀のアダム・スミスに至るまでの、貨幣・信用をめぐる議論を、信頼されうる制度的信用の形成という視点から見てきたが、その骨格となる展開について研究を深めることができたとともに、研究開始の時点ではそれほど明確に認識してはいなかった、制度の信頼性を論ずる際に究極的には個人の道徳性が要求されていたということを一次文献の検討の中でより自覚的に見出すことができた。これは、以後本研究を著作という形でまとめるときの基本的な視点ともなるであろう。
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