研究実績の概要 |
過年度に引き続き,本年度も本研究を進めるにあたり必要と思われる新たな文献及びデータの収集を行った.特に,昨年度に研究の方向性を考慮していたgrowth incidence curve (GIC) とpoverty growth curve (PGC) に関する文献の収集を行い,本研究のテーマである所得分布の中央値に基づく不平等指標・貧困指標との関連を中心に文献の詳細な検討を行った.また,GICもPGCもpro-poor growthを計測するために開発された手法なので,pro-poor growthに関する文献も併せて検討した.
Son (2004, Econ Letters) が述べているように,GICは所得分布の分位点における成長率を求める必要があるが,PGCはその分位点までの平均所得の成長率から求めている.そのため,例えば,年間収入十分位階級のデータがあれば,PGCを簡単に計測することができ,pro-poor growthを計測する簡便法として有用である.本年度は「全国家計構造調査」の2019年と2014年の世帯所得の十分位階級データを用いて,poverty growth curveを計測した.分析の対象となっている2014年から2019年は,量的金融緩和政策が行われた時代に含まれている.2014年から2019年までの5年間で,1世帯当たり等価世帯所得は$5.88\%$成長した.この成長がpro-poorか否かを検証対象の1つとした.また,PGCの計算方法を富裕層に適用したrich growth curve (RGC) を提案し,5年間の成長がpro-richか否かも検証した.その結果,2014年から2019年までの5年間の所得の成長はpro-poorとは言えず,pro-richであることが判明した.得られた結果は,論文にまとめ,海外の専門誌に投稿する予定である.
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