研究課題/領域番号 |
19K01585
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
黒住 英司 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (00332643)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | バブル / 仮説検定 / オンライン検定 / モニタリング |
研究実績の概要 |
本研究の目的は,1:既存のバブルの検定をモニタリング検定のフレームワークへの拡張,2:バブルのモニタリング検定の統計的性質の分析,3:モニタリング検定でバブルが検出された場合の検出までのタイムラグの分布の分析,4:モニタリング検定の実証分析への応用,の4点である。令和3年度の研究では,これまで想定していた撹乱項の仮定を大幅に緩めて,改めて目的1の拡張を試みた。すなわち,これまで想定していた分散(ボラティリティ)が均一であるという仮定を排除し,条件無しのボラティリティが非線形・非定常な場合のモニタリング検定の開発を進めた。ただし,インサンプルでのバブルの検定についても,ボラティリティが一定でない場合についてはその研究が国際的に発展段階にあるため,モニタリング検定への応用の前段階として,まずはインサンプルでのバブルの検定方法の開発を行った。その結果,ボラティリティの推移をノンパラメトリックに推定し,その相対的な大きさに応じてサンプリング期間を変えることにより,新たなバブルの検定(インサンプルでの検定)方法を開発した。先行研究にも不均一分散下でのバブルの検定は存在するが,今回開発した検定手法のパフォーマンスが既存のものを上回るケースがあり,理論・実証研究の両面から,新たな検定手法が開発できた意義は大きい。 この手法に関連して,目的4の実証研究については,開発した手法をビットコインを代表とする12種類の仮想通貨に応用したところ,既存の検定ではバブルを検出するものの,不均一分散を考慮するとバブルの兆候が認められないケースが発見され,不均一分散の考慮が実証面でも重要であることを示すことができた。 さらに,研究実施計画をより発展させ,バブルが検出された場合のバブルの発生時点・崩壊時点・通常の市場動向に戻る時点の推定方法を提案し,その有効性がシミュレーション実験により確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初の計画では条件付き不均一分散は認めるものの,条件無しの分散については一定である仮定の下でモニタリング検定を開発していくことを想定していた。研究実施計画で述べた目的1から4については,この条件下ですべて達成されたことから,当初の計画は達成されたといえる。 それに加え,令和3年度はモデルの仮定を大幅に緩和し,条件無し不均一分散下でのインサンプルでのバブルの検定を開発し,同仮定の下でのバブルのモニタリング検定の開発の足がかりを作った点は,当初の計画を上回る内容となっている。 さらに,バブルが検出された場合の,いわゆる変化点の推定については当初の計画には含まれておらず,変化点推定の研究の進展は当初計画をより発展させた内容となっている。
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今後の研究の推進方策 |
上述したとおり,令和3年度の研究では,モデルに条件無しの不均一分散を許した上で,実行可能なバブルのインサンプルの検定を開発した。今後は,この手法をモニタリング検定へ応用する方向で研究を進める。 また,バブルのモニタリング検定では,金融資産価格などの経済変数が急激に上昇する傾向を検出することが主目的であるが,バブルが発生しなくとも経済変数が急激に下落することも重要な課題である。たとえば,新型コロナウイルスのまん延により,一時的ではあるが金融資産価格が下落した兆候が見られるケースがある。バブルのモニタリング検定はこのような現象の検出にも有用であると思われることから,経済変数が「崩壊」する方向へ動く場合についても,その検出方法について検討を行う。 また,令和3年度の研究成果である,バブルの発生・崩壊時点の推定手法は,不均一分散下の元でも頑健ではあるが,分散が拡大している期間ではその推定精度が落ちることがシミュレーション実験により確認されている。したがって,不均一分散化下でのより効率的な変化点推定の手法の開発も今後の研究課題である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの蔓延により,参加予定の学会がオンラインもしくはハイブリッド方式に切り替わったため,旅費の使用額が全くなかったことと,学会がオンライン化されたことにより,学会参加費がディスカウントされたのが主な理由である。今後の使用計画だが,新型コロナウイルスの感染状況の収束を待って,可能であれば研究成果を国内・外で発表をする予定である。また,研究成果が雑誌に掲載された際のオープンアクセス化に使用する予定である。
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