研究課題/領域番号 |
19K01586
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
山本 庸平 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (80633916)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 分散構造変化 / 尤度比検定 / 構造的識別 / 構造ベクトル自己回帰モデル |
研究実績の概要 |
課題A「個別ショックの分散構造変化分析」においては、回帰モデルの誤差項の分散についての構造変化の新たな検定手法を提案した。一般に、経済変動の動学的性質に構造変化がある場合には、既存の分散の構造変化検定は結果に歪みをもたらすものの、本検定手法はかかる歪みをなくすことができる点で新しく実用的な手法である。 この論文は2019年4月に一橋大学のワーキングペーパーとして公表し、研究代表者のホームページでは実証分析に用いるためのプログラムも公開した。また、本成果を国際学会および国内外の複数の大学でのセミナーで発表し、参加者から有益な助言を得ることができた。加えて、この手法に関連する研究成果を(1)提案した手法と既存の手法を比較したシミュレーション分析、(2)提案した手法を用いて米国経済の「偉大なる安定化(The Great Moderation)」の要因の実証分析、の2本に纏めた。その結果、(1)は国際学術誌に掲載され、(2)は一橋大学のワーキングペーパーとして公表し、現在国際学会などへの投稿を行っている。 課題B「分散の構造変化を用いた因果効果の識別」においては、既存研究で考察された因果効果の識別法(identification through heteroskedasticity)を、共通因子モデルの構造を取り込んだ場合に適用する方向で研究を進めた。2019年度は理論的な証明をほぼ完成させたうえ、既存研究についての理解を深めるため、当該テーマで世界をリードしているフィンランドのヘルシンキ大学に約1週間の研究滞在を行った。滞在期間中はセミナーでの研究発表も含め、最先端の研究者から有益な助言を得ることができた。2020年3月末時点では、この論文を国際学術誌に投稿し、審査を受けている。同時に、より多様な実証研究への適用可能性を求めて文献調査及びデータ収集を行っている最中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2019年度は、課題Aの遂行に予想以上の時間を費やした。その理由は、計量経済学分野での既存文献を精査した結果、回帰モデルの分散の構造変化を検定する手法のほぼ全てが、回帰係数に変化があると正確な推論ができないことを発見したからである。かかる手法をそのまま共通因子モデルに適用するならば、実証分析において誤った結論を導いてしまう。そのため、本研究課題では共通因子モデルから一旦視点を変え、より根源的な線形回帰モデルに基づいた分散の構造変化分析の手法を確立することになった。先述のように2019年度末においては、その課題は克服しつつあるものの、当初の課題である大規模データに適用するための共通因子モデルを扱うところまで進捗していないことから、課題Aの進捗率は約20%程度である。 課題Bの進捗についても、比較的緩やかなものに留まった。その理由は2つあり、前述のように課題Aに予想以上の時間を費やしたこと、年度末からの新型コロナ対策のために教育事務量が増加し、本研究に思うように時間が割けなかったことがある。また、自宅勤務においては使用することのできるコンピュータに限りがあるため、データの取得作業やシミュレーション作業が遅れがちになっている。その結果、こちらも進捗率は約20%である。しかしながら、年度前半に技術的な部分はほとんど確立することができたため、なるべく遅延することなく課題を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度も引き続き新型コロナ対策の継続から、通常の環境で研究に取り組むことができる状況になるまでには暫く時間を要すると考える。その対応策としては、コンピュータやソフトウェアを機動的に調達することで、自宅勤務の中で大規模なコンピュータ・シミュレーションをより効率的に進めるよう整備する。さらに、国内外の学会は軒並み中止・延期となっているものの、オンラインで開催される会議に出席することや、オンラインでの研究報告を積極的に行っていくことで対応したい。
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