本研究では、金融市場における資産価格形成の解明を目的とし、指値注文(売買価格を指定する注文)の発生メカニズムを説明するための新しいモデルを提案するとともに、提案モデルを推定するための新しいアルゴリズムの開発を目指してきた。本研究で提案する新モデルの大きな特徴としては、注文発生間隔のモデルに1日の取引時間中の周期的変動パターン(日中季節性)、市場に出されている指値注文の状況(板情報)を活用する点が挙げられる。 最終年度である2021年度では、前年度から引き続き、継続時間の時系列モデルの一種であるSCD (Stochastic Conditional Duration) モデルに日中季節性と板情報を反映できるように拡張する研究を推進した。そして、この拡張されたSCDモデルをマルコフ連鎖モンテカルロ (MCMC) 法でベイズ推定するアルゴリズムを実装するプログラムを開発した。そして、このモデルの有効性を人工データで確認する作業を進め、東京証券取引所における個別銘柄の日中取引データを利用してモデルの実用性の検証を進めた。この成果は近日中に論文にまとめて学術雑誌に投稿する予定である。 さらに金融高頻度データを利用して多くの資産から構成されたポートフォリオを構築するための計算技法の研究も並行して進めた。この研究の主たる目的は、高次元の精度行列(分散共分散行列の逆行列)を観測値の数が行列の次元数より少ない状況でも安定してベイズ推定できるようにMCMC法のアルゴリズムを改良することである。改良されたアルゴリズムはギブズサンプラーに基づいているが、先行研究で提案された手法とは異なり、推定される精度行列の正定値性が必ず保証されるという特徴を有する。この研究成果は、査読付き英文ジャーナルであるJapanese Journal of Statistics and Data Scienceに掲載された。
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