本研究課題では、次の3つのテーマに取り組んだ。すなわち、①ファッションデザインの創発に関する基礎理論の構築、②創発したファッションの収益化の1スキームであるファッションライセンスに関する理論分析、③ファッションデザインに関連した文化表現と差別表現についての法的検討である。 全体を通して本研究課題が重視したのが、産業財産権におけるファッションの特殊性である。ファッションは有用期間がきわめて短く、有用期間が過ぎればそれ自体の価値は失われる。著作権による保護対象にならないことが多く、商標権が援用される。デザインの創作に関わる関係者が多く、差別表現に対するコントロールがゆるくなりがちである。これらの点は特殊である。 また一方で、産業財産権全体に共通する問題(権利侵害に対する法的手段における費用負担問題、模倣を抑えることは必ずしも創発にプラスではない)も加味して、上記の3つのテーマに取り組んだ。これらの問題はデザイン創発を最善から乖離させ、企業組織・企業制度による対処の有用性を高める。これが本研究課題を通じた主要結論である。 ファッションの知的財産権やファッション産業の事業再編は、現在、現実の法務やビジネスでホットなトピックスの一つになっている。そういった中で、本研究課題の成果は、たとえば文化表現と差別表現に関する重要な被引用があるなど、社会的にも一定のインパクトをあげている。今後は組織再編に関わる知見について、より広い発信に努めたい。
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