本研究は2020年度前半までは地方財政と航空業界との関係性に注目し特に空港運営主体の違いがどのような帰結をもたらすかについて分析し、ある程度の結論も得た。しかし2020年度以降は感染症拡大という社会的な問題に対応するため、また今後も同様の状況が起きうるため将来への準備という必要性からも当初の研究の方向性をシフトし「感染症と移動に対する望ましい税金あるいは補助金」についての研究を行った。それまでの研究で構築してきたモデルでは人の移動と地方財政・中央財政の関係を分析することが出来ていたので、このモデルから出発し、感染に関する外部性をモデルに導入することで分析を行っている。また、感染症の流行そのものに関してはSIRモデルという既存の数理モデルによる分析が多数あり本研究は地域間の外部性に注目する点で既存のモデルとは性質がかなり異なるが、これらとの比較可能性を出来るだけ高くするための工夫も行っている。 主要な結果や分析の概要については以下の通りである。ある地域で感染症が流行した場合、感染者本人に対する感染ダメージの他に医療費や感染症対策費などでその地域に財政的なダメージを与える。また、住民には「自地域で感染するorさせる」か「他地域で感染するorさせる」という可能性がある元で旅行するかしないかの選択を行っている。これらの選択に伴う「感染させる」可能性については外部性であるため政府による何らかの介入が必要である。そこで、中央政府が一律の課税あるいは補助金を移動に対して課税する状況を分析し、地域間移動に対して課税を行うべき状況と補助金を与えるべき状況の双方が存在することを発見した。例えば、人々を感染割合が低く安全な地域へ移動させる便益が大きい場合などには補助金が正当化される状況が生じる。そのため移動を制限するような課税と移動を促進するような補助金は状況に応じ適切に判断されるべきである。
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