1. アグリツーリズムの経済効果 差別化の1例として昨年度行った、生産による環境への外部性がある途上国におけるアグリツーリズムの経済的影響に関する成果が2021年7月に出版された。この分析方法を応用し、先進国のアグリツーリズムの経済的影響について検討を行った。途上国からの労働流出が望ましいという以前の結果より、先進国への労働流入は経済厚生を下げることを予想していたが、労働流入はむしろ経済厚生を高め、環境についても改善させることを明らかにした。また、農産物と観光サービスの比率を高めることが、経済厚生、環境の面で望ましいことも示された。本成果は、学会報告及び学術雑誌への投稿に向けて準備中である。 2. 製品基準と自由貿易協定 国際寡占の3国モデルを用いて、自由貿易協定(FTA)が製品基準および経済厚生にどのような影響を及ぼすか、基準の調和がFTAの経済的インパクトにどのように影響するかについて検証した。分析の結果、FTAは基準を厳格化すること、FTA加盟国の経済厚生は増加するとは限らないが、非加盟国の経済厚生は増加すること、基準の調和はFTAの経済的インパクトを大きくすることが明らかになった。本成果は、査読付き学術雑誌に掲載された。 3. カント均衡の性質 企業の自主的環境投資に注目し、個人の暗黙の協調によって導かれるカント均衡の投資と、先行研究で主に用いられているナッシュ均衡の投資、そして社会厚生が最大となる投資の水準を比較した。分析の結果、カント均衡の投資は、他企業の環境被害に対する不効用が存在する限り、ナッシュ均衡の投資よりも大きくなること、ナッシュ均衡投資は常に社会厚生最大化投資を下回るが、カント均衡投資は、等しい場合も、上回る場合もあることの2点が示された。本成果は、代表者所属機関のディスカッションペーパーとして公開され、現在、査読付き学術雑誌に投稿、審査中である。
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