研究課題/領域番号 |
19K01614
|
研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
行武 憲史 日本大学, 経済学部, 准教授 (80804690)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 災害の損失評価 / 均衡ソーティングモデル / ケイパビリティ・アプローチ / 福島原発事故 |
研究実績の概要 |
東日本大震災と福島第1原発事故は、自主的・強制的な避難や移住など居住者に大きな損失をもたらした。災害時の被害・損害に対する正確な評価は、復興のための補助金や補償を決定する上で重要である。損失を計測する分析手法の代表にヘドニックアプローチがあるが、居住者の質の均質性など仮定が厳しく解釈については制約が伴う。
本研究の第1の目的は、原発事故について、汚染が被災者の居住行動に与えた直接的な影響を確認した上で、均衡ソーティングモデルにより居住者の不均一性を考慮した損失を計測することである。福島第1原発事故のような広範囲かつ深刻な環境汚染は、人々の強制的な避難、自主的な避難といった大規模な移住を発生させる。20年度では、国勢調査の小地域データと放射線データをマッチングしたのち、放射線量が移住にどう影響したかを定量的に検証した。その結果、放射性物質による汚染の影響により20~40歳代という若年世帯の人口が減少させることが確認され、福島原発事故の影響には異質性が存在することが示された。
本研究の第2の目的は、ケイパビリティ・アプローチを用いて被災地主にとっての土地の役割を定性的に特定し、これらの要因が補償に反映されているかどうかを定量的に検証することである。20年度は、災害後の補償/復旧メカニズムの焦点となる、家計の幸福の主要な決定要因を特定することを目的として分析を行った。具体的には、「日本家計パネル調査」データを用いて、5つの基本的な幸福の要素(収入、仕事、余暇、健康、住居)が家計の全体的な幸福に与える影響を評価したのち、これらの基本的な要素に影響する個人や世帯特性を特定した。その結果、余暇の質や健康といった要素が全体の幸福度に与える影響が大きいことが示された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
20年度は、第1のテーマについて、国勢調査の小地域データと放射線データをマッチングしたのち、放射線量が移住にどう影響したかを年齢を主とした家計の異質性を考慮し定量的に検証した。現在この分析結果をもとに、異質性を考慮した災害に対する損失を計測する分析を行っている。 第2のテーマについては、災害後の補償/復旧メカニズムの焦点となる、家計の幸福の主要な決定要因について分析を行いワーキング・ペーパーとしてまとめた。ただし、本年度に企画した、土地の果たした機能に対する主観的な情報を収集・整理するための被災者地主に対するインタビュー調査は、残念ながら新型コロナウィルスの影響により中止した。また、メルボルン大学の共同研究者との打ち合わせについても予定通り実施できなかったため研究計画に遅れが生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
21年度は、放射性物質による汚染の移住に関する影響、および震災の影響が主観的な幸福度に与えた影響についての分析結果を取りまとめ、セミナーや学会を通 じて発表し、論文を改訂していく。 第1のテーマについては、20年度研究で明らかになった直接的な移住への影響に加えて、均衡ソーティングモデルを用いた分析を行う。分析に当たっては土地に対する需要関数を推定するため、消費者の選好の異質性を認めた操作変数を用いるBLP(Bery, Levhinsohn and Pakes, 1995)アプローチを用いる。すなわち、はじめに居住選択に関する離散選択モデルを用いて、家計の選好の不均一性を計測する構造的パラメータを推定したのち、ヘドニック価格関数を推定し、家計の不均一性を考慮した限界支払い意思額を計測する。
第2のテーマについては、20年度のワーキングペーパーでまとめた幸福度の要因を踏まえて、被災地主にとっての土地の役割を定性的に特定するために、WEBアンケート調査を実施し、市場価格と個人の持つ機能ベースの価値の間の差を検証する。 これらの分析の結果については、随時国内外のセミナー・研究会・学会等で積極的な報告を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
20年度にヒアリング調査を実施予定であったが、新型コロナウイルス感染症の流行に伴い調査を中止した。21年度についても調査のめどが立たないため、WEBアンケート調査を新たに企画し実施する。また、推定作業、論文作成の遅れから、学会発表ができなかった。放射性物質による汚染の移住に関する影響、および震災が主観的な幸福度に与えた影響について、学会発表を行い論文を改訂する。改訂した論文は英語校閲に出し、その後英文査読誌に投稿する。
|