東日本大震災と福島第一原子力発電所事故は、自主的・強制的な避難や移住など居住者に大きな損失をもたらした。災害時の被害・損害に対する正確な評価は、復興のための補助金や補償を決定する上で重要である。
本研究の第1のテーマは、原発事故について、汚染が被災者の居住行動に与えた直接的な影響を確認した上で、均衡ソーティングモデルにより居住者の異質性を考慮した損失を計測することである。福島第一原子力発電所事故のような広範囲かつ深刻な環境汚染は、強制的/自主的な避難により規模な移住を発生させる。国勢調査を用いて、放射能汚染が人口変化率に与える効果を年齢コーホート別に推定したところ、中年期に比べ20~40歳のコーホートおよび子ども世代において人口減少がみられ、年齢によって放射能汚染に対する反応の違い、すなわち異質性が確認された。これは、子育て世代が放射能汚染を回避する傾向が強く、高い限界支払い意思額(MWTP)を有していることを示している。
本研究の第2のテーマは、ケイパビリティ・アプローチをもとに被災者における土地の役割/機能を定性的に特定しこれらの損失と災害・事故に対する補償が幸福度の回復に寄与するかを定量的に検証することである。21年度は住宅の機能の指標が住宅満足度に与える影響について分析をおこなった。日本家計パネル調査データを用いた分析の結果、住環境を自分で選択できること、防災や復興に対する機能、コミュニティの維持といった要因が幸福度に貢献していることが示された。最終年度においては、被災者に対するインタビュー調査を通じ土地の機能に対する主観的な情報を収集・整理した。それをもとに東北地方を対象に主観的幸福度WEB調査を行った。その結果、津波被災者、原発事故被害者、その他の人々の間で現在の幸福度に大きな違いがあり、住宅や土地の持つ機能が幸福度の回復に違いをもたらす可能性が示唆された。
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