本研究では、加入率が低く運営が困難となっているカンボジアにおける小口医療保険制度を実施可能にするために、現行の医療保険のスキームをどのように変更すれば良いか、どのような特性を持つ潜在的保険需要者がより高い支払い意思額を表明するか、という点について、実験的手法を用いた現地調査による情報収集と計量経済学的分析とにより明らかにしようとした。具体的には、2019年度に実施した現地調査により収集したデータに離散選択モデルを適用し、代替的な保険スキームに対する潜在的保険需要者の保険に対する支払い意思額を推計したうえで、①別途実施した調査から保険の属性ごとの実施費用を推計し、費用便益分析を行うことによって実行可能性を検証する、②支払い意思額とそれを規定する要因(家計特性、リスク選好、時間選好、VSLAへの加入など)との間の関係を分析することにより、潜在的保険需要者の異質性と支払い意思額との関係を明らかにすることである。①、②の研究は、2019年度に実施した調査研究の結果を用いて分析を行い、2本の論文を執筆し、学術誌や学会で報告した。 2021年度は、2019年の調査後に発生したコロナ禍により、医療や保険に対する農村世帯の行動が、どのように変容したのかに着目し調査を実施した。 2019年と比較するため、前回と同じ調査世帯を対象に、所得・資産・就業状況やリスク選好、時間選好、および、保険に対する支払い意思額を、同様の方法で調査し分析した。 暫定的な分析結果は、調査対象地域住民の①コロナ禍により雇用機会、所得、資産などは減少し、②リスク回避度、および、現在バイアスを持つ世帯員の割合は低下したが、③医療機関や保険に対する評価は改善していることを示している。 調査の実施が新型コロナ感染拡大により、2022年2月になってしまったため、研究成果の発表は2022年4月以降になる。
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