本年度は、抗精神病薬であるジプレキサ、エビリファイの特許切れに着目し、2016年4月の薬価基準改定で患者向けのインセンティブとして導入された、新規で上市されるジェネリック医薬品の薬価引き下げ政策の効果を分析した。ただし、同政策の効果を評価するには、薬価引き下げ政策によるジェネリック医薬品の普及と、新たなジェネリック品が使用可能になったことによる普及を明確に区別する必要がある。本研究では、離散選択モデルに基づく需要関数の推定結果に依拠したシミュレーションを行い、上記の課題に対応した。シミュレーションの結果、ジプレキサ、エビリファイの特許切れに伴うジェネリック版の上市は、ジェネリック医薬品の普及を33.9%から38.9%へ4.9ポイント押し上げたことを示す結果が得られた。さらに、この4.9ポイントを薬価引き下げ政策による押し上げ分と新製品販売による押し上げ分に分解したところ、前者の効果は全効果の38.8%に該当する1.9ポイントだったことが明らかとなった。薬剤費への影響ついては、薬価引き下げ政策によりジェネリック医薬品の普及が促進されことで、2016-2017年度の2年間で抗精神病薬市場全体の2.7%に該当する、38.5億円の削減に寄与したことを示す結果が得られた。なお薬価基準改定が行われた2016年4月においては、診療報酬改定でも医師向けのインセンティブを中心にジェネリック医薬品の普及を目指す政策が導入されていた。同改定のジェネリック医薬品普及への影響については、統計的有意水準に課題が残るものの、仮に効果が認められたとしても、その効果は新規ジェネリック品薬価引き下げ政策の2割程度だったことを示唆する結果も得られた。
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