アジアの発展途上国の中には廃棄物の公的な収集システムが整備されておらず、収集が不十分となり、結果的に不法投棄・焼却やそれに伴う水害・大気汚染が生じることが多々ある。 伝統的な環境経済学では直接規制や環境税を用いて個人の行動変容を実現し、最適な環境水準を達成することを目指してきた。しかし、途上国においては規制の遵守・監視が容易ではなく、税の徴収はさらに困難となる。 本研究では国際協力機構(JICA)がインドネシアで実施したプロジェクトを事例研究の対象とし、継続的に調査を行いデータを追加することで、「行動変容を促進するメッセージ」を手段とした環境政策を研究する。より具体的にはインドネシアの家庭から排出される廃棄物の不法投棄・焼却を減らすことを目的として、コミュニティが運営する廃棄物収集プログラムへの参加者を増加させる施策について検討した。説得的なメッセージやそれを用いたコミュニケーションの効果を検証し、そのメカニズムを明らかにした。また、メッセージを伝達する「送り手」に着目し、さらに「受け手と送り手の相性」も考慮して「説得的コミュニケーション」による勧誘がもたらす効果を計量経済学的に評価した点に特色と独創性がある。 JICAプロジェクト後に収集したデータを解析した結果、どのようなメッセージを送ることと同様あるいはそれ以上に、どのような人がどのような市民にメッセージを届けるかも重要であることがわかった。例えば、送り手の地元の土地勘や過去の職業経験、受け手の子供の有無などが要素である。また、ある種の勧誘メッセージは送り手のモチベーションを低下させる可能性があることを示唆する分析結果も得られた。 本研究の分析結果より、発展途上国のコミュニティにおける廃棄物の適正管理プログラムを成功に導くためのコミュニケーションが満たすべき条件が明らかとなった。
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