国際的な資本と労働移動がマクロ経済に与える影響を分析するために、フィリピン1国の静学的応用一般均衡モデルを構築した。フィリピンのように柔軟な国際的な労働移動がある場合には、最低賃金規制によって賃金が引き上げられると、国内で雇用が減少するものの、そのほとんどが国外へ移動して、稼得した賃金所得を国内に送金することになる。しばしば、最低賃金の引き上げはその国の所得や更生を低下させると指摘されるが、このモデル分析ではその逆の帰結が、フィリピンのような外国へ労働者を多く送り出す国においては発生しうるということを示すことができた。もちろん、国内雇用が減少することによって、国内経済が縮退してしまう、また、(海外からの送金が非課税であるために)国内の所得源から得られる税収が減少してしまうという副作用が発生することも指摘した。これとは別に、2022年に発生したロシアによるウクライナ侵攻に対する西側各国による経済制裁(輸入関税と輸出税の引き上げを通じた交易条件の操作)の効果を世界貿易一般均衡モデルを構築して計量的に把握した。そこでは、ロシアの化石燃料輸出がどの程度削減できるか、それによって、日本を含む各国でどの程度エネルギー価格が上昇するかといったことを吟味した。エネルギーとともに、食料供給に対する不安も発生したことを受けて、各国(とくに途上国)においてどの程度、小麦等の食料価格が上昇するかも示した。マクロ経済的には、ロシア経済が被る被害(GDPや民間消費の減少)と、制裁を科す側の国が被る被害を示し、中国が制裁に参加することが経済制裁の効果を非常に大きくすることができることを示した。
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