本研究では、2015年にネパールで発生した最大震度8強の地震による人的物的被害を社会経済ステータス(SES)グループ別に分析した。また、SESグループ別の地震被害に違いが発生するメカニズムとして、高・低SESグループ間の居住家屋の頑強性の違いを検証した。 2015年の地震で震度4以上の揺れに襲われた2500弱のネパールの村町を分析し、以下の結果を確認または発見した。高・低SESグループの分類は、教育、家計資産、職業データから算出したスコアに基づく。 (1)人的物的被害は、震度が同じであれば、高SESグループよりも低SESグループで大きいことを確認。(2)高・低SESグループ間の人的物的被害の差は、震度が大きくなるにつれて拡大。(3)高・低SESグループともに、人的物的被害のうちの一部は、居住家屋の頑強性(建築資材)の違いを通じてもたらされた被害である。(4)震度が大きくなるにつれて、居住家屋の頑強性(建築資材)の違いを通じてもたらされた被害の割合は、高・低SESグループともに、高くなる。(5)居住家屋の頑強性(建築資材)の違いを通じてもたらされた被害の割合は、すべての震度において、高SESグループよりも低SESグループで高い。 これらの発見は、時間との闘いになる救命活動(救命資源)の優先地域を決定したり、家屋の耐震化などの自然災害対策のための補助金などの資源配分を効率化するために有益な情報となりうる。 既存研究のサンプル選択の問題(既存文献では、地震被害があった、または地震被害が大きかった家計のみをサンプルとして地震の影響を推定しており、推定値にバイアスがかかっていることが考えらえる)を整理し説得力のある形で記述するのに時間を要しており本科研費事業の実施期間終了までに完成することができなかったが、今後も研究を継続する。
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