本研究は以下の研究テーマからなる。 A)環境保全型農業技術および有機農業認証への政府補助金プログラムに関する、村落内の知識・情報の共有メカニズムの解明 B)フィールド実験の手法を用いた、農家による環境保全型の農業技術採用の要因解明と採用による農業生産性への影響評価 最終年度の研究実績の概要は以下の通りである。まず、テーマAに関して、昨年度完成した論文を投稿・改訂中である。当初、既存のネットワーク・モデルにより、無作為化比較試験を通じた農業認証に関するリーフレット配布が与える影響の推計を試みていた。推計結果は、農業認証に関する知識の増加、実際の農業認証申請への参加という主要なアウトカムにおいて、村落内のネットワークというよりも、村の農業リーダーとの直接的な繋がりが最も重要な要因であることが示していた。既存研究に対する本研究の優位性を鑑みたときに、ネットワーク・モデルを用いていることが、むしろ論文の優位性を分かりにくくしているとの指摘があり、分析手法を(ネットワーク・モデルに限定されてない)より一般的なモデルに変更した。その際に、村人同士の繋がりを一から再作成する必要があり、(データ処理上の誤りが見つかり調査協力者への確認作業を要したことも相まって)この作業に多くの時間を費やすことになった。分析自体はほぼ完了しており、論文を鋭意改訂中である。テーマBについては、昨年度整理したデータを用いた分析が完了した。無作為化比較試験を通じた有機肥料への補助金は、当然、有機肥料の採用に正の影響を及ぼしているが、残念ながら生産性への影響は限定的であることが示された。このこと自体は、事実の解明としてはもちろん重要であるのだが、政策的含意に関する新たな知見を提供しているとは言い難く、研究論文としては厳しいものである。上述のテーマAの論文改訂に時間を取られたこともあるが、論文としてまとめるに至っていない。
|