研究課題/領域番号 |
19K01631
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
宮崎 浩一 香川大学, 経済学部, 教授 (80749713)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 給付付き育児休業制度 / インセンティブ |
研究実績の概要 |
本年度は少子化対策の経済政策として「給付付き育児休業制度」に関する理論的な研究を行った。この制度はほぼ全ての先進国で採用されている制度であり、出産によるキャリアの断絶を嫌って子供を持つことをためらう労働者がこの制度のおかげでより子供を持ちやすくなると考えられている。OECD加盟国の間で、給付額と給付期間のデータをプロットすると、両者には負の相関関係があること、そして給付額は休業前の給与よりもほとんどの国において低下することが特徴的である。この2つの特徴を理論的に説明することができるのかどうかを今年度中心的に検討した。 具体的には確率的に労働者のステータスが遷移するような動学モデルを考えて、そのモデルの中で社会厚生を最大化するために政府は休業期間の長さとその間の給付額を決定するような最適化問題を検討した。この研究で特に注目したのは休業取得者が休業明けに必ずしも職場復帰をしなくても良いという点である。育児休業取得者は、休業前には職場復帰の意思がたとえあったとしても、休業が終わるときに復帰しないという意思決定をしても何も罰則等はないのである。よって、休業取得者を休業明けに職場復帰させるためには育児休業制度自体がそのようなインセンティブを休業取得者に与える形になっている必要がある。この制約はこれまで明示的に考慮されてきたものではなく、私の知る限りこの研究が初めてではないかと考えられる。 この制約を考慮することによって、休業期間と給付額の間の負の相関関係に理論的な説明を与えることができ、また給付が給付前の給与水準より低くなることへの妥当性の説明を与えることが出来た。また、給付額と休業期間の間の負の相関関係は「労働者がどれだけ容易に育児休業が取得できるか」ということを表すパラメーターが重要な説明力を持つことが分かった。今後はこのパラメーターを実際のデータで置き換える作業が必要と考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
論文の初稿が完成しており、5月30日、31日に開催される日本経済学会春季大会で報告する予定である。その後、そこで得られたコメントなどをもとに改定し、2020年度中には学術雑誌へ投稿できると考えられている。よって、研究はおおむね順調に進展していると言ってよいかと思う。
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今後の研究の推進方策 |
まず、2020年度は現在書き終えた論文を学術雑誌に投稿し、掲載されることを目指す。その後、現段階で抜けている視点(たとえば、企業が育児休業制度を認めるインセンティブは何か?)などを加えてモデルを発展させ、新たな知見を得たいと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は学内業務等で予定していた研究会や国際カンファレンスに出席することが叶わなかった。本年度は出来るだけ(状況が許せば)研究会や国際カンファレンスに出席したいと考えている。また、所属が変更になったため、研究用の高性能のコンピューターを一から用意する必要があるため、その購入費用に使用したいと考えている。
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