本研究の目的は、中国において市場から淘汰されるべき競争力が低い企業が何らかの背景のもとに市場に残存している実態の有無、及びその背景を実証的に解明することにある。 分析の結果、国有企業においては、第1に、2007年のリーマンショックに端を発する世界金融危機後、銀行からの融資が効率性の低い企業にも行われることによりゾンビ企業の存在が実証的に明らかになり、第2に、但し国有企業に対する銀行融資の市場淘汰に対する救済的役割は短期融資にとどまっていることが見出された。一方で先行研究ではあまり指摘されない民営ゾンビ企業については、日本を対象とするゾンビ企業の研究をはじめとする先行諸研究が定義するゾンビ企業の特徴に適合する民営企業の存在の有無を、中国において実証的に探究することによりその存在が明らかにされた。そしてその民営企業のゾンビ化の契機、背景及び要因について、企業間信用による取引企業からの与信が企業の淘汰確率を低める傾向があること、また、特に(中国民営企業の中で相対的に)大規模企業の経営不振を補い、市場からのそれらの淘汰確率を低下させることが見出された。 これらの分析を通じて競争的とされた民営企業においても企業金融ネットワークを通じた救済という形での特に大規模企業でのゾンビ企業化の傾向がみられると結論でき、民営企業もターゲットとする市場の健全化のための政策が講じられる必要性が指摘される。 このような中国民営企業の市場における行動変容を踏まえ、特に(研究期間延長をした)本年度には、それが具体的にどのようなものであるかの検討を目的とした分析に取り組み、上記政策提言のために分析の精緻化を図るとともに今後の研究の展開を展望しつつゾンビ企業の特徴を持つ企業とそれに当てはまらない企業の、様々な局面での相違点の抽出に着手した。
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