研究課題/領域番号 |
19K01640
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研究機関 | 追手門学院大学 |
研究代表者 |
橋本 圭司 追手門学院大学, 経済学部, 教授 (60208444)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 代替の弾力性 / 森嶋弾力性 / CES生産関数 / トランスログ生産関数 / 無形資本 |
研究実績の概要 |
一定の生産量に対して、労働投入要素を学歴や経験年数などの熟練を示す指標で細分化して、資本ストックとの間の代替ないし補完の程度を測る指標である代替の弾力性を計測することが、本研究の目的である。とくに、少子高齢化による労働市場の構造的変化が顕著となった近年の統計資料を用いて、資本熟練の補完性仮説の検証を試みるが、本研究では、これまでにない視点として、資本についても、有形固定資本と無形固定資本に区分して、それらと、熟練度によって区分された労働との代替ないし補完関係の変化を明らかにする。2020年度においては、資本と労働の代替関係は、産業間で状況が異なるとの目論見から、製造業とサービス業の場合について、それぞれの産業別データの収集、加工に取り組んだ。各種の統計資料を検討し、データの接合性の問題も考慮して、付加価値額、労働者数、有形、無形資本のデータが含まれている『法人企業統計調査』(財務総合政策研究所)の産業別データの加工を行った。強調すべき点として、従来の研究では、労働については熟練度による細分化が行われているが、資本ストックを有形、無形に区分しての分析はいまだ存在していない。本研究では、産業別に、無形固定資本の影響をとらえることを目論んでいる。また、代替弾力性について、多くの研究で用いられている、アレン-宇沢の偏弾力性だけでなく、より一般化された森嶋弾力性の適用可能性について、トランスログ型生産関数の場合とCES型生産関数の場合について、推定係数値との関係を整理した。とりわけ、CES型生産関数の場合には、二段階ないし三段階の推定を行うための変数の組合せの検討の他、時系列ないしパネルデータを用いる際に、基準年を設定して当該変数の平均で除して基準化して推定を行う方法が近年注目されていることを受けて、推定作業に取り組んだ。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
1975-2019年の『法人企業統計調査』(財務総合政策研究所)の産業別データから、製造業に含まれる15産業、サービス業に分類される12産業について、それぞれ、付加価値、役員数、従業員数、人件費、有形固定資産、無形固定資産その他に関する各データを整理し、パネルデータの作成を行った。生産関数として、投入要素間の代替可能性について柔軟性を持つトランスログ型生産関数およびCES型生産関数を取り上げることとし、それぞれの場合について、係数推定値と代替弾力性の定義式との関係を整理した。パネルデータを用いた推定方法として、SURやGMMなどのシステム推定の適用を行い、投入要素間の代替ないし補完の程度を測る指標として、ヒックスの補完弾力性、アレン-宇沢の偏弾力性、森嶋弾力性その他の弾力性を算定した。現段階で、まずトランスログ型生産関数を想定した場合の推定結果、それによる各弾力性の値について、報告論文を作成中である。 なお、『法人企業統計調査』の膨大な産業別データの処理に予想以上の時間が必要だったことに加え、いわゆるコロナ禍のため、オンライン授業への対応その他、教育面での業務が想像を超えて増えたため、取り組みの姿勢を含め研究時間の変更、減少を余儀なくされた。これが研究進捗にやや遅れをきたしている理由である。また、計画していた海外学会での研究報告のための海外旅費は、計量経済学的分析のための文献、とくに急激に世界的な広がりを見せているソフトウェア「R」に関連する書籍の購入にあて、習熟に努めている。
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今後の研究の推進方策 |
労働者の熟練度に影響を与える属性として、教育年数、経験年数などがあるが、それらは現在推定に用いている『法人企業統計調査』では得られないことが、懸案事項の一つである。労働データとして用いるべきは、多くの属性を捉えた『賃金構造基本統計調査(賃金センサス)』(厚生労働省)であるが、『法人企業統計調査』とのデータの接続の際の留意事項を検討しなければならない。無形資本の捉え方についても、近年研究の広がりが見られるが、たとえば、役員報酬の一部は無形資本とみなすべきとの主張がみられる。無形資本を成長促進要因と考える一連の研究の意義を認めつつも、本研究では生産ないし成長過程での、労働との代替可能性を加味するという点で学問的特徴を有すると考えているが、データとして無形資本そのものをどのように捉えるか、論点を整理しておきたい。さらには、生産要素間の代替関係は、これまでの本研究では、製造業とサービス業に注目し、産業別データによる分析を試みているが、重要な視点として、企業規模間での差異を考慮することも視野に入れたいと考えている。 また、生産関数の推定を行う際、2段階ないし3段階の推定を行う、CES生産関数の推定では、時系列ないしパネルデータの場合に基準年を設けるという点について、どの年を基準年とするかの根拠、また、代替弾力性の定式化について、森嶋弾力性の優位性について、理論的見地からの評価をどのように行うか、さらに検討を加えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会での研究報告を計画していたが、コロナ禍のため海外旅費への充当分が遂行できなかったため、次年度使用を余儀なくされた。 次年度に向けて、国際学会参加のための海外旅費に充てることを計画しているが、それがかなわなければ、所属大学での研究費とあわせて有効活用できるよう、計量経済分析関連書籍の購入に充てたい。
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