少子高齢化による人口構造の変化に直面している日本の統計資料を用いて、資本熟練の補完性仮説の検証を行うことが本研究の基本的な目標である。生産過程における、労働投入要素と資本ストックとの間の代替ないし補完の程度を測る指標である代替の弾力性を計測している。独創的な視点として、資本ストックの指標化に関して有形固定資産と無形固定資産に区分して、さらに労働を役職者と従業員に分けて、それら4つの生産要素間で代替、補完関係を明らかにしている。用いるデータは、『法人企業統計調査』(財務総合政策研究所)で公表されている製造業15部門(1975-2020)である。生産要素間の代替関係において、無形固定資産の影響を分析した研究は皆無といってよい。本研究では、それらを生産要素、付加価値額を被説明変数とするトランスログ型生産関数を、各生産要素のシェア式と連立させ、SURによって推定して各生産要素間の代替弾力性を算定している。 代替弾力性は、主として森嶋弾力性に焦点を当てて算定した。その過程で、生産関数の存在そのものの妥当性について、同次性、加法性、分離可能性などの条件をワルト検定によって検証するとともに、いわゆる凸性について、各生産要素の限界生産力が正、そしてそれらが逓減することを確認している。この点は、多くの実証研究では見落とされている。また、各係数の推定値の統計的有意性は、ブートストラップ法によって検定している。 森嶋弾力性の値から、無形固定資本と有形固定資本は、石油製品・石炭製品製造業でもっともは代替的である、無形固定資産は、従業員との間では補完的、役員との間では代替的である、また役員と無形固定資産との代替の弾力性は、有形固定資産とのそれよりも相対的に大きいという傾向がみられ、本研究から得られた新しい知見として分析結果を報告する。
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