本研究は、複数の税率を同時に決定することができる経済理論モデルの構築とその解析方法を開発することを目的としている。この分析を行うことで、実際の政府が経済成長率を高めるために様々な税率を同時に決定しようとする場合、より現実に即した政策提言を行うことが可能となる。モデル構築および解析方法を開発する際には、個人の最適化行動に関する先行研究の成果を取り入れ、より経済主体の行動を精緻化することを試みる。研究期間を通じて、効用関数や人的資本が経済成長に果たす役割に着目し、その定式化の精緻化に取り組んだ。また、構築したモデルの解を得るための解析方法の開発に取り組んだ。 本年度は、出生率と経済成長率の上昇の両方を志向する政府が、少子化対策と教育のどちらの政策にどの程度の資源を配分するべきか、また、経済成長率を最大にするための最適税率について検討した。また、経済成長率を考える際に、人的資本の蓄積に注目して新たな定式化を試みた。子供の人数が増えると、一人当たりの教育支出が減少するため、人的資本の蓄積には負の影響を与える。これが、Bucci and Pretter(2020)によって指摘された、人的資本希釈効果である。これは、現在の日本において、小学校の数や小学校の職員数が減少していること(教員数は微増)を考慮した場合、少子化対策により子供の人数が増加したとすると人的資本希釈効果が起こる可能性がある。こうした設定の下で分析を行った結果、家計の選好が、利他的であるか利己的であるかによって、出生率を上昇させるかどうか、また、経済成長率を上昇させるかどうかが異なることが明らかになった。さらに、最適な資源配分の割合についても示すことができた。また、今年度も引き続き関連する先行研究のサーベイを行った。
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