研究課題/領域番号 |
19K01642
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研究機関 | 関西学院大学 |
研究代表者 |
寳劔 久俊 関西学院大学, 国際学部, 教授 (90450527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 中国 / 農業経営 / 構造調整 / 効率性 / 農地 |
研究実績の概要 |
農地権利保護の強化と非農業就業の増大、労賃上昇による農業機械化の普及を背景に、中国では近年、農地流動化が急速に進展するとともに、新しい農業経営体も数多く出現している。本研究課題ではこの新しい農業経営体の参入による農業の構造的変化に注目し、「経営規模」(零細、中規模、大規模の経営体)、「経営方式」(農業協同組合への参加状況、大規模専業農家の有無、農業企業の有無など)という2つの分析軸を設定して、農業経営の効率性に関する比較研究を行うものである。 この研究目的を達成するため、本年度(2021年度)は、中国国内の研究機関に委託する形で、農業経営体に関するアンケート調査を実施した。アンケート調査は、江蘇省を3つの地区(蘇北、蘇中、蘇南)に分類し、各地区を代表する地域を選出した上で、それらの地域から合計で約600世帯を無作為に抽出する方式で行われた。アンケート調査の委託実施にあたり、本来であれば調査実施の実施時期にあわせて、調査予定地域において現地調査を行う予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス(COVID-19)による厳しい海外渡航制限が続いていたため、中国での現地調査は実現できなかった。 他方、本年度はアンケート調査の成果を利用して、調査データの詳細なクリーニング作業と集計作業を実施した。その際、個票データに不整合が見つかったり、集計値が実態と大きく乖離している場合には、委託先に調査原票の確認作業や調査地への問い合わせを依頼し、より信頼性の高いデータベースを構築してきた。それと当時に、研究書や学術論文、各種のマクロ統計や新聞・雑誌の記事などを利用して、中国における農業経営の実態についての情報収集を行い、データ解析のための理論的枠組みと具体的な実証手法の検討を進めてきた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度(2021年度)は、中国国内において新型コロナウイルス(COVID-19)の感染が比較的抑制されていたため、中国の研究機関に委託する形で農業経営体に関するアンケート調査を実施することができ、約600世帯に対する調査データを収集した。その一方で、新型コロナウイルスによる厳しい海外渡航制限が継続していたため、本年度の実施を予定していた調査対象地域での現地調査は実現できなかった。ただし本年度の後半には、中国側と連絡を取りながら、アンケート調査に関する詳細なデータ・クリーニング作業と集計作業を広範に行い、より信頼性の高いデータベースを構築してきた。 以上の理由から、(2)おおむね順調に進展していると評価することができる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に実施したアンケート調査の結果に基づき、中国側の研究者と密に連携を取りながら、経営規模と経営方式という2つの分析軸を設定し、フロンティア生産(費用)関数、あるいは利潤(費用)関数の推計に基づく生産効率性の比較研究を実施する。また、経済環境は類似するが経営規模や経営方式が異なる複数の地域を対象に、経営体間の統計的マッチングを行うことで、観察不可能な経営体の固有要因の制御も試みる。 開発経済学では、途上国農業における農地面積と単収との間の「逆相関仮説」(負の相関に関する仮説)について古典的な論争がなされてきた。様々な途上国に関して膨大な数の実証研究が行われ、中国の穀物生産に関する実証分析も進展しているが、本仮説について必ずしも統一的な見解は出ていない。その一方で、近年の中国農業研究では農業労働賃金の上昇を通じた農業機械化や農地貸借への影響を実証した研究、あるいは農業経営の生産効率性向上や大規模化に貢献する農村の新たな制度・組織に注目した研究も増加している。しかしながら先行研究では、「逆相関仮説の検証」と「要素価格変化による農業技術選択の実証」が別々に実施される傾向があり、農業経営の効率性の視点からの体系的な分析は十分に行われてこなかった。この2つの視点を適切に融合させて議論すると同時に、農業を取り巻く制度的変化(協同組合の設立・加入など)と経営規模を関連させ、農業経営の効率性を統一的に議論する。 さらに2022年度には、アンケート調査の実施地域で補足調査を行い、データ推計や論文執筆中に浮かんできた疑問点や不明な点を確認するとともに、その研究成果の一部を国際学会で発表したり、ワーキングペーパーとして出版する。しかし、中国で新型コロナウイルスが再び拡大する危険性も存在するため、調査委託先機関と密に連絡をとりながら、現地調査の実施時期について慎重に検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度(2021年度)は、農業経営体向けのアンケート調査の実施にあわせて、調査対象地域において現地調査を行う予定であった。しかしながら、新型コロナウイルス(COVID-19)による出入国制限のため、中国でのアンケート調査を実施することが出来なかった。また、新型コロナウイルスの影響で、アンケート調査の実施自体も1年間遅れで本年度に実施する形になったため、調査データに基づく具体的な集計作業や本格的な推計作業も初期段階に止まっている。 そのため、本来は本年度に使用予定であった中国での実地調査や実証分析のための経費を次年度(2022年度)に繰り越す必要が生じ、次年度使用額が発生した。この資金を利用して、次年度(2022年度)には、アンケート調査の実施地域で補足調査を行うとともに、その研究成果の一部を国際学会で発表したり、ワーキングペーパーとして出版する。
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