企業が研究開発投資の調整をいかに行っているかを明らかにするため、日本の上場企業(製造業)のパネルデータを用いて動学的投資モデルを推定し、推定されたパラメータで前期の投資に対する限界効果および予測値を推計した。分析の結果、研究開発投資の平準化による非常に強い持続性が働いており、前期の投資水準を維持していることが示された。さらに、企業属性と戦略による調整行動の違いに関して、企業規模と外部組織の連携度でサンプル分割した検証を行った。その結果、外部組織との連携度が高い企業群では持続性が相対的に低下しており、異時点間で投資の調整が行われることが示唆された。 研究期間全体を通じて、2つの観点から研究開発投資の調整行動について実証的検証を行った。第一に、企業の内部資金(キャッシュフロー)や外部資金の変動が研究開発投資にどのような影響を与えるか、またそれは企業の直面する不確実性によってどのように変化するかについての論文を執筆した。研究開発投資への効果として、高い不確実性のもとではキャッシュフローの変動に対して研究開発投資が反応しにくくなる「警戒効果(cautionary effect)」が示された。同時に検証した設備投資と比較して、研究開発投資におけるこの効果の影響は非常に小さいが、長期的に持続することがわかった。第二に、前期の研究開発投資水準に対して当期の研究開発投資がどのような反応を示すのかを実証的に検証し、論文にまとめた。先述のように、研究開発投資の平準化によって前期の投資水準を維持する行動が見られたが、どのようなイノベーション戦略を志向しているかによって持続性の程度は異なり、投資の調整行動には異質性が存在することがわかった。以上は、研究開発促進を意図する政策の効果、また研究開発投資による技術知識の蓄積は経済成長の源泉となるため、政策や経済成長を論じるうえでも示唆を与えるものである。
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