研究実績の概要 |
本年度は,金融ショックの国際波及チャネルとして国際貿易と国際金融取引を同時に考慮した研究に着手した.その下準備として,銀行の金融仲介機能への負のショックがR&D投資へ波及して景気後退が長引く閉鎖経済モデルを構築し,その結果を以下の論文としてまとめた. 論文"Financial shocks to banks, R&D investment, and recessions"ではGertler and Kiyotaki (2015)などで用いられた銀行の構造をGrossman and Helpman (1991)での品質改善型R&D内生成長モデルに導入し,銀行の資金収集能力に負のショックが生じたときの長短両期の効果を分析した. 現在,負の金融ショックが景気に与える効果を分析した理論論文は既に数多く存在する.しかし,先行研究の多くでは金融ショックがGDPや消費,投資などを減退させる一方,株価などは即座に上昇させるという理論予測が出ることが多い.この後者の動きに関しては必ずしも現実に観察されるわけではない. この論文において,(i)企業は(通常のR&D内生成長モデルで仮定されているように)R&D投資資金を株式発行で賄う,(ii)家計は株式を保有できるが,追加的な取引費用が発生する点で銀行による株式保有に比べて効率性に劣る,(iii)しかし,銀行は自身のモラルハザードに起因する借り入れ制約に面している,という3つがある場合,銀行へのショックはGDPなどの経済の実体面と株価(金融面)を同時に減退させ得ることを示した. 上記論文と昨年度の成果である"Trade, growth, and the international transmission of financial shocks"の2編の論文を現在査読誌に投稿中である.また,上記の論文で用いたモデルを2国に拡張した分析も現在進行中である.
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