本研究の目的は、「情報銀行を中心としたパーソナルデータの取引に関する制度が機能するために必要な政策提言をおこなう」ことであった。具体的には「生産費用の概念が通常の財と異なるパーソナルデータについて、個人はその供給者として合理的な意思決定が可能なのか?」という問いの下、具体的には「個人のパーソナルデータに対する金銭評価の非合理性」、「情報銀行が提供する便益の多様性と選好」の2点を分析することであった。 研究期間全体としては、パーソナルデータの価値認識について、個人情報漏えい時の個人への金銭的補償への意識に関し、漏えいする個人情報の組み合わせの違いによる差異を分析することができた。現実の企業活動、行政活動においては、その活動の特性によって取り扱う個人情報は異なる。この点、どういった活動での漏えいに対する補償意思が高いかなどを考察することができた。 また、個人情報の取扱いを巡って世界的に議論、また実際の制度整備の対象となっている忘れられる権利について、個人の立場からの価値認識を分析することができた。忘れられる権利については、実際の制度整備に当たって様々な形態を考えることができる。そこで、忘れられる権利の範囲の相違などが個人の評価にどのような影響を与えるかを考察した。 研究最終年度は、研究全体を取りまとめた他、本研究とも関連する直近の議論である情報的健康概念について、今後の研究の発展を見据えて検討を行った。 近年では、医療情報の利活用の進展などに伴い、パーソナルデータの取扱いについても慎重な検討が求められている。検討においては、プライバシーの問題だけでなく、経済活動との結びつきを踏まえたデータの経済的価値の分析が必須である。この点、本研究は今後の望ましい政策形成につながる重要な研究となったといえる。
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