本研究の目的は,公共サービス部門の拡大と経済成長の関係を理論的に分析することである.この問題を扱った先行研究のほとんどは,いずれも生産要素として労働のみを考えており,経済成長モデルであるにもかかわらず資本蓄積を考慮していない.しかし,労働集約的であるとされるサービス業部門においても,機械(資本)は導入されており,今後サービス業部門においてAI化が進むであろうことを考慮すると,モデルへの資本導入は不可欠である.本研究では,製造業部門,民間サービス部門,公的サービス部門からなる3部門モデルを構築し,生産要素として労働と資本を考慮し,さらに,各部門の生産性が内生的に上昇するように設定する.そのモデルを用いて,民間サービス部門および公共サービス部門の拡大と経済成長の関係を分析する.このような試みはこれまで行われておらず,本研究は先駆的な研究であると言える.
本来であれば昨年度が最終年度であったが,研究期間を1年間延長し,初年度に構築した基本モデルを拡張し,解析的手法と数値シミュレーションによる分析を進めた.しかしながら,その分析過程において,基本モデルの設定に根本的問題があることが判明したため,今年度は基本モデルの設定を再検討することから始めた.その結果,モデルの構造がかなり複雑となり,解析的手法による分析は著しく困難となった.可能なかぎり数値計算に頼らず解析的手法による分析を行いたいので,モデルの設定を少しずつ変更したり簡単化の設定を行ったりして,解析的手法による分析が実行可能であるかどうかを探り続けた.最終的には,本研究の目的を達成するためには,相当程度複雑なモデル設定が必要であり,その分析を行うためには,解析的手法による分析は困難であるとの結論に達した.
|