研究課題/領域番号 |
19K01655
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
木村 雄一 大分大学, 経済学部, 准教授 (80419275)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 土地所有制度 / 資金市場・資金アクセス / 土地利用 / 政治参加 |
研究実績の概要 |
計画1年目の作業内容は、論題である中国農村の土地制度改革と農業家計の土地利用・投資への影響、農村の政治規範への影響について、書籍により情報収拾した。進捗程度は、ほとんど実績として結実させることはできていない。研究費執行の主な使途である予備調査と本調査はまだ実行に移せていない。理由のひとつは下記のウィルス禍もあるが、この欄ではいまひとつの原因である、研究内容上の論点再考の必要について述べる。
筆者は前回のアフリカについての科研費事業で、土地制度と農業への投資・農業家計の所得についての研究を行った。アフリカ・ガーナのゴムプランテーションと契約小自作農のデータを使い、より明確に設定された土地権利が、農業家計の商品作物への投資を促進する結果が得られており、この研究は一旦完成した。土地所有権と土地への投資は、今回の計画でも共通する基本的な視点である。次いで、中国農村についての本計画のために論点を設定する段階になったが、ここで、所有権や土地権利が明確になることが、なぜ投資に結びつくのかをさらに特定する論理的な要請が出てきた。中国農村の本計画遂行にあたっても、この点について視点の精査は前提になる。
アフリカでは、公的な土地登録、親族経由の農地に対する契約栽培者の権利に対する企業の調停などが、耕作者の土地に対する個人的権利を明確にした。これが商品作物への長期的投資に結びついた理由が問題となったが、このリンクは仮説的に3つの仮説が考えられた。第一に、土地市場取引が活発になることにより労働と土地の公立配分が実現し、それにより作物への投資も促進されるという道筋、第二に、共有規範の縛りが、投資を行った者にとっての生産物アクセスを阻害する効果の緩和、第三に、権利者が明確になることにより土地の担保価値が生じることである。これらの論点は中国農村でも中心的となり、加えてより広い経営選択が関係する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
第一に、研究計画のおおきくふたつの論点をさらに見直すための考察に時間がかかった。第二に、コロナウィルスにより渡航困難となった事情がある。計画1年目に、第一の点、研究内容の再考を図りつつ、年度おわり頃に予備調査のため調査地の中国へ渡航しようとしていたところ、第二の点、ウィルス禍発生の事態になり、中国への渡航が困難となった。このふたつの他に、今回の調査地の中国に限らず土地所有制度改革全般についての論点整理の必要が生じた。
中国の土地改革の文脈では、集団管理下にある土地のモラルハザード問題や、生産物の共有規範がもたらす投資抑制効果については1978年以降の第一次市場化改革により既に解決されている。土地権利と投資の関係は、さらに次のような論点と関連する。1. 限定的だった土地・労働市場が完全な市場機能に近づくことで、土地と労働、資本の生産要素の効率的な組み合わせが実現する余地が広がる。2. 土地の担保価値が生じ、それを使った資金アクセスによる投資促進効果。3. 土地の貸し出しに際する使用権の保障、または売却権により都市への移民が促進される、都市住民との機会格差が是正される、などだ。
従来は農地から住宅など他の用途への転換は、地方政府の(低価格での)買取を通じてしか行われ得ず、地方政府による収奪の手段となっていた事情がある。最も徹底した土地制度改革パッケージを行ったと見られる成都の例では、農業家計から直接に土地市場へ売却することが可能になっている。これらの変革は、中央政府が基本方針を示すのだが、実際の適用は地方政府の自主的判断によって個々の内容が決められ、順次実施されていく。従って、特定の調査地が、複数の変革の影響を受けている可能性があるし、調査地候補ごとに、どの変革がどの時点から施行されるに至っているかを確認する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
第一に、研究計画を考え直す必要がある。本研究計画には大きくふたつの部分があり、 それらは 1) 土地制度改革による土地利用権の拡充が、農業家計の投資行動に与える影響、2) 土地利用権拡充が、農業家計による政治参加の動機に及ぼす効果、である。申請時は、1) は土地の担保価値上昇による資金アクセス改善があるかどうかが主な焦点となる。2) は集会参加や隣人との協議などの政治参加行動への姿勢に対する効果を念頭に置いていた。しかし、1) はかなりの程度、他所で示されてきた論点でもあり、研究の独自性の点で不満が出てきた。現に私のアフリカのデータによる同論題の科研研究でも、全く同じ示唆を得るに至っている。2) についても、市民社会形成や農村の政治規範へのインパクトに迫りたいが、論点として今ひとつ鋭さに欠ける。両論点ともに、知見の到達地点をより鋭く見極め、より先進的な論点を新たに探し出し、同時にその検証方法も考え直すことにより、より意義のある計画に刷新できる余地が残っている。これには、予備調査から得る情報を勘案して進める。ウィルス禍が鎮静する時期を待ち、その後できるだけ速やかに予備調査に移りたい。
本調査で重点となる調査地は、予備調査を経なければはっきりとは決められないが、予測される問題は、とくに寧夏 (Ningxia) 省の場合には内蒙古大学からも他の大都市からも遠いため、質問票が確定した後の数百件の聞き取り調査を実行するにあたり、調査員の確保が難問となりそうだ。遠隔地の大学から雇用する場合は宿泊費や連絡に困難が予想されるし、逆に、近隣からの雇用を考える場合、調査員の水準の点で困難が生じるトレードオフがある。
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次年度使用額が生じた理由 |
第一に、研究計画の大きくふたつの論点をさらに見直すための考察に時間がかかった。第二に、コロナウィルスにより渡航困難となった事情がある。上記の諸点を計画2年目のできるだけ早い時期に詰め、予備調査および本調査に入る。予備調査と本調査の両方を計画2年目に行う計画変更に従い、1年目の予算をすべて2年目へ移行する必要がある。 予算使用計画として、先ず、遅延中の予備調査に、旅費・宿泊費を使用する。英語ー中国語の通訳を、調査地から鉄道で数時間の比較的近距離に位置する呼和浩特市から、日給133 Euro で雇い入れることができることを確認している。通訳と共に、優先順位が高い調査地から順に、寧夏 (Ningxia) 省 石嘴山(Shizuishang)市、陝西 (Shaanxi) 省 咸陽 (Xianyang) 市 楊陵 (Yangling) 区に、それぞれ1週間前後滞在し、調査の許可についての打診と、可能な限りにおいて市役所からの聞き取りを行いたい。 家計を対象とした予備調査と本調査には当局からの許可が必要になる。(事前情報によれば場合によるということだが)、まず現地市役所を直接訪問し、許可について打診するしかない。通訳はそれぞれ、呼和浩特市、西安市から雇用する予定である。自分の渡航、自分と通訳の飛行機による国内移動・宿泊、調査地内での車両借上に予算を使用する。
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