研究課題/領域番号 |
19K01655
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研究機関 | 大分大学 |
研究代表者 |
木村 雄一 大分大学, 経済学部, 准教授 (80419275)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 土地所有制度 / 信用アクセス / 土地利用 / 労働移動 / 所得分配 / 政治参加 |
研究実績の概要 |
本計画は現地調査によるデータ収集、それに基づく計量経済学的な分析に依存する。当初から計画期間を3年間に設定していたが、調査を実施できないまま最終年度まで経過した。予備調査も本調査も現在まで実行できていない。したがって当然データはなく、その分析結果もない。つまり「研究実績は概要」に相当する内容は全く作り出し得ていない。
この結果、大部分の時間を本計画と同様に土地制度のインパクトを研究内容とする、アフリカのサーベイを使った前回の科研研究課題論文のリバイズに費やした。2021年度初頭に Economic Development and Cultural Change に投稿しリジェクトされたもので、この空き時間を利用して分析の大部分をやり直し、親族所有が農業への投資を抑制するのはなぜかというメカニズムへの分析がある程度達成された。 今回の計画に活かせる知見として、データ収集の段階で変数が親族・家計・農地区画と複数の観察単位に跨ることが、分析目的によっては困難を来すことで、可能な限り最も小さい農地区画単位で聴取しておくことが有効であること、逆に家計の観察どうしを関連づけてられれば親族の階層に役立つかもしれないとの示唆を得た。
2022年度も、中国のコロナ感染状況と国の感染防止政策の方向に注視し、2022年度の夏までに予備調査、2022年度後期末の春に本調査を実施できればありがたい。これも感染状況・中国政府の方針によっては実行可能性が危ぶまれる。期間再延長特別措置が2022年度後半に再度講じられることに希望を託する以外ない。その場合、これは希望的観測だが、2022年度後半に研究期間再延長特別措置が講じられれば、2023年春に予備調査、2023年夏に本調査を行う可能性に望みを託す。調査予定地では冬季の寒さが厳しいことが予想されるので、この場合のように本調査を夏に設定できれば理想的である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本計画は現地調査によるデータ収集、それに基づく計量経済学的な分析に依存する。当初から計画期間を3年間に設定していたが、調査を実施できないまま最終年度まで経過した。中国の土地制度改革の効果について研究のサーベイをある程度まで進めた。しかし本計画は中国内陸でのフィールドワークとデータコレクションを実施しなければ進捗は望めない。本年度もコロナウィルス感染状況が収束しなかったため足止め状態が続いた。
上記5. 記載に加え、前計画から得られた知見で本計画に寄与し得るのは次のような点である:前計画と同様、本計画は土地所有・利用制度の変更という政策の効果を評価することを最初の動機としている。前計画では、結果的に政策介入の効果(効果はほとんどなかったと結論)よりも、土地利用密度の低さがなぜかという本質的メカニズムに拡大し、それに見合う成果を得た。本計画も同様に、研究動機は想定した特定の論点から拡大していく可能性がある。論題の中心は依然として担保権付与が土地利用選択へどのように作用したかであることは変わりないが、同時に次のような、より広い論点が本質となってくる可能性があるだろう:まず、農村の土地利用構造がどうなっているか、土地への投資密度が低いのはどのような階層であるか、それらの決定要因は何であるか、などだ。このような大きな構造の把握が必要であるとの認識で今後の作業を準備する。この点からも、論理的な関心の中心以外の、上記5. のサンプリングデザインと収集するべき変数の設定、論点の中心以外の制御変数の設定が重要な課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
本計画の寧夏省プロジェクトは、それらの社会実験のうち最新のものではあるが、上記の諸研究の結果から実証的に既にかなりのコンセンサスが得られていて、追加的な社会実験も結果は予測の範囲を出ない可能性が高いと思われる。このような意味で、本計画の主要な問題設定について、結論がある程度自明である、あるいは、問題設定の幅が小さいように思われることについて不満がないわけではない。新しい貢献を加える余地があるとすれば、土地市場・信用市場・労働市場での取引拡充へのインパクトと別に、所得分配へのインパクトが考えられなくもない。この点は比較的研究が少ないことは確実であるので、経済活動促進の所得階層別などの差異に着目して詳細に明らかにすることは一定の意義があると言えるだろう。調査が可能になった時点で注力するべき論点のひとつである。
調査票の作成のみ進めた。ここで、調査時点で、調査地に居住していない家計についての情報を得る方法が必要となる。土地制度の予測される効果として、土地の(請負権・経営権)貸し出し・売却と移住が焦点となり、移動後の経済的選択・所得などを観察する要請があるからだ。本来では長期間のインターバルを開けた2時点以上の調査でなければ得られない。回顧データの方法を使っても、通常は調査時点で居住している家計についての過去情報しか得られず、移動してしまったものについては補足できない。この問題について、親族ベースのサンプリングによる情報取得方法を考案した。サンプリングの第一段階を家計単位でランダムに行い、そこから親族家計を追う。調査時点で居住していない家計の家族構成、土地取引の詳細、移動先での経済活動や子供の修学などの情報について詳細に聴き取りできることを期待する。
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次年度使用額が生じた理由 |
予算の大部分は、中国寧夏省 石嘴山市でのデータ収集の現地調査に使用される計画であった。特に雇用する6、7人程度調査員の謝金や、必要な場合は宿泊費などである。本調査は、本計画の開始時点の計画で、もともと初年度(2019年度)ではなく2年目(2020年度)に行う予定であった。この場合、予備調査を初年度の冬に、本調査を2年目の夏を目処に行う予定であった。この予備調査予定の2019年度終盤にちょうどコロナ禍が始まり、2021年度末の時点でも収束に至らず、全ての計画が未遂行のままの状態となった。2019年1月から数えると現在2022年度末時点で2年になろうとしているが、最短で、2022年度夏に実施できる状況となれば、まず予備調査の旅費と調査費用に使用する予定である。
使用計画は、内容に関してはこれまでの内訳のままで良い。ただし時間軸としては、まず予備調査、次に半年ほどを空けて本調査が望ましいので、希望的観測としては、2022年度の夏までに予備調査、2022年度後期末の春に本調査を行うことができればありがたい。最低でも理想の時間軸がとれない場合は、予備調査から本調査へ連続して実行できるための準備を出来る限り整えておきたい。
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