研究課題/領域番号 |
19K01656
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研究機関 | 京都府立大学 |
研究代表者 |
川勝 健志 京都府立大学, 公共政策学部, 教授 (20411118)
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研究分担者 |
RUDOLPH Sven 京都大学, 白眉センター, 特定准教授 (20737407) [辞退]
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | Fit-for-55 / EU-ETS / 炭素国境調整メカニズム(CBAM) / 社会気候基金 / 社会正義 |
研究実績の概要 |
本年度も研究期間を延長し、当初計画の2年目に予定していたテーマ(カナダ各州のカーボンプライシング収入の活用実態と持続可能性)に関連して参照すべき欧州のEU-ETSの新たな動向や、EUの気候変動対策パッケージ(「Fit-for-55」)の一環として2023年5月に導入された「炭素国境調整メカニズム(CBAM)について検討し、本研究成果の充実化を図った。具体的には、9月にフランスのドーフィン大学で開催された「第24回環境税国際(GCET24)」において、研究分担者と共に参加・報告し、以下のような点を明らかにしたことである。 1つ目は、「Fit-for-55」は、EUにおけるカーボンプライシングによって生じる収入の使途を見直す良い機会になるという点である。初期の「EU-ETS 1」では対象外であった運輸・建築部門をカバーする新スキーム「EU-ETS 2」やCBAMの導入によって、EUにおけるカーボンプライシングによる収入は大幅に増加する。しかし現行案では、その収入の大部分は加盟国のエネルギー転換を促すために用いられ、カーボンプライシングの逆進性を緩和するために用いられるのは、経済的に脆弱な低所得者層や中小企業を支援する「EU-ETS 2」の「社会気候基金(Social Climate Fund)」のみとなっている。しかし、包括的な社会正義(Social justice)という意味でも、政治的実現可能性という意味でもそうした予算配分は、私たちが提唱してきた評価指標(SMR: Sustainable Model Rule)の観点からはやや課題が残ると評価した。 2つ目は、収入の大部分を気候変動対策に用いるとしても、残りの収入は産業部門と低所得者層を対象としたエネルギー移行投資に、CBAMからの収入は「国際気候基金」として用いることも一案であるとの示唆を得たことである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は本来であれば、一昨年度で終了予定であったが、新型コロナウイルス感染症拡大の影響によって、本研究で決定的に重要なカナダでのヒアリング調査を二年間延期するなど、研究計画の変更を余儀なくされたからである。そのように予期せぬコロナ禍に見舞われたことが、当初計画がすべて後ろ倒しになった主な要因であるが、それだけの理由ではない。 他方で、研究期間を延長したことによって、上記「研究実績の概要」で述べたように、近年の欧州での新たな動向ついても重ねて検討することが、本研究で事例として取り上げているカナダのカーボンプライシングの評価に有益な示唆を与えてくれると「前向きに」考えたこともその理由の1つである。とりわけ後者については、研究分担者の所属が研究期間中に日本の研究機関からドイツの研究機関に変わったことから、欧州の情報はもとより現地で関係者のヒアリング調査が容易にしやすくなったことをむしろ有効活用できると考え、研究期間をさらに1年延長することを積極的に選択した。そのことが当初計画との関係では進捗の遅れとなった。
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今後の研究の推進方策 |
上記「現在までの進捗状況」で述べたように、昨年度は新型コロナウイルス感染症拡大の影響だけでなく、研究期間を延長したことで本研究にも有益な示唆を与えてくれる欧州カーボンプライシングをめぐる新たな動向についても合わせて検討することは、本研究を深めるために極めて有益であったという意味で「前向きな」進捗の遅れともいえる。 いずれにしても、今年度は本研究の最終年度となることから、新たな推進体制の強化を図るというよりも、延長した期間も含めて蓄積した研究成果の取りまとめに注力する予定である。またその際には、本研究のプロセスで構築した研究者ネットワークを大いに活用して議論を重ねるなど、できる限り研究成果の質の向上に努めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じたのは、新型コロナウイルス感染症の拡大によって、当初計画していたカナダでのヒアリング調査を2年間後ろ倒しにせざるを得なかったこと、急激な円安の影響で海外旅費が高騰し、資金計画を見直さざるを得なくなったこと、研究期間中に研究分担者の所属機関が日本からドイツに変更されたことなどがその主な理由である。 今年度は本研究の最終年度となることから、繰り越したとはいえ残りの資金もわずかであることから、その資金は主に研究成果を報告するための旅費に用いる予定である。
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