研究課題/領域番号 |
19K01657
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
宋 俊憲 東京国際大学, 商学部, 教授 (40585527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 自由貿易協定 / アンチダンピング規定 / WTOプラス |
研究実績の概要 |
本研究は、現在発効済みの自由貿易協定(FTA)におけるアンチダンピング(AD)規定の内容を検討・分析し、FTA締結がAD措置の運用に与える影響を計量的に分析し、貿易救済措置の差別的な運用に関する実証的根拠を提示することである。そこで本研究の初年度(2019年度)には、FTAにおけるAD規定のWTOプラスの度合いを測定する新たな指数の開発に着手した。この指数は、主に知的財産権保護の度合いを測るGinarte & Park(1997)指数を参照し、0(AD措置の自由な発動)から5(AD措置発動の禁止)までの値をとるように開発した。AD規定の指数化は初めての取り組みであり、とりあえず「AD制限指数」(Antidumping Restrictiveness Index)と名付けた。これはOECDが公表するFDI制限指数からヒントを得たものである。 AD制限指数は、少し改良・修正の余地はあるものの、世界の発効済みFTAのAD規定を把握し、WTOプラスの度合いを可視化できる有効な手法であると考えられる。現在、AD制限指数は5つの項目(透明性の確保、手続的要件、実体的要件、AD措置、その他の考慮要件)で構成されており、それぞれの項目は4~5の要因で評価される。例えば、透明性の確保では、①情報公開義務、②証拠提出基準、③調査開始及び措置発動の公告義務、④AD委員会(協議体)の設置、⑤GATT・WTO規定上の権利と義務の順守などに関する条項がFTAのAD規定に含まれているか否かを判別し、仮に全ての要因が含まれていると1の値をとる。同様な方法で5つの項目を評価し、FTAのAD制限指数を計算することになる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題の進捗は、おおむね順調に進展していると思われる。最初の研究計画では、研究初年度(2019年度)に、新たに開発されたAD制限指数を用いて世界287件の発効済みFTAのAD規定を全て検討し、Teh et al.(2009)が提示したAntidumping Templateを用いてWTOプラスの度合いを可視化することであった。しかし、最近のFTAでは、従来に比べてより広範かつ詳細なWTOプラスの規定が盛り込まれていることが明らかになった。そこで本研究では、最近締結されたFTAにおけるAD条項の内容を綿密に検討・分析した上で、Antidumping Templateのみならず他の先行研究も考察しながら、本来の研究計画とは少し異なる形でAD制限指数の開発と改良を行った。 現在、本研究では、韓国と日本の発効済みFTA及びEPAのAD規定を分析し、各々のFTA・EPAにおけるAD制限指数を導出し、両国のFTA・EPAにおけるAD規定のWTOプラスの度合いを数値化した。以降、これまでの研究成果に基づいて、AD制限指数を更なる改良を行い、世界の発効済みFTAのAD規定を分析する予定である。
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今後の研究の推進方策 |
最近、新型コロナウィルスの影響で、大学の研究室への立ち入りが制限されており、大学の方針で在宅勤務が行われているので、研究活動にも大きな支障が出ている。また、これまでの研究成果については国内外の学会で報告して建設的なコメントを得る予定だったが、新型コロナウィルスの影響で学会報告会も全て中止されている状況である。そこで、本研究で開発されたAD制限指数の内容とその有効性については、2020年度下半期に研究報告する予定である。 一方、本研究の2年目(2020年度)の目標としては、先行研究で明らかになったAD措置の決定要因を考慮して、FTAがAD措置の運用に与える影響を実証分析し、FTA加盟国と非加盟国に対する差別的な運用実態を把握することである。そこで、今後の主な研究課題は、実証分析に必要なデータ・セットを構築しながら、分析モデルの精緻化を行うことである。具体的には、既存研究で明らかになったAD措置の決定要因を検討・整理し、Tabakis & Zanardi(2018)の実証モデルを修正・利用する方向で進めている。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの影響により、学会の研究報告会が全て中止されるなど、旅費の支出が予定より少なくなった。
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