研究課題/領域番号 |
19K01657
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研究機関 | 東京国際大学 |
研究代表者 |
宋 俊憲 東京国際大学, 商学部, 教授 (40585527)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 自由貿易協定 / アンチ・ダンピング(AD)条項 / WTOプラス条項 / AD措置の制限度 / AD制限指数 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、自由貿易協定(FTA: free trade agreement)に盛り込まれているアンチ・ダンピング(AD: anti-dumping)条項を分析し、FTAにおけるAD措置の制限度を新たに開発した指数で測定した上で、FTAでAD措置を制限する要因について計量的に分析することである。そこで本年度(2021年)は、前年度に開発が完了したアンチ・ダンピング制限指数(AD Restrictiveness Index: ADRI)を用いて、世界貿易機関(WTO)に通報された発効済みFTAにおけるAD措置の制限度に影響を与える要因について考察した。 FTAにおけるAD規定の類型は、(1)No rules(規定なし)、(2)WTO-equivalent(WTOルールの準用)、(3)WTO-plus(WTOプラス)、(4)Prohibition(AD禁止)の4つに分けられる。WTO発足以降、WTOに通報された315件のFTAを見ると、WTO-plus類型が最も多い146件で全体の46.3%を占めている。続いてWTO-equivalent類型が95件(30.2%)、No rulesが59件(18.7%)である。最後にFTAでAD措置の発動を禁止するProhibitionは僅か15件(4.8%)である。以上のように本研究では、315件のFTAをAD条項の類型別に分類した後、各FTAのADRIを算出した。 そして、本研究では、上記315件のFTAにおけるADRIの結果を用いて、どのようなFTAでAD措置の発動を制限するかについて分析した。先行研究の考察を踏まえて、本研究では、締結されたFTAの市場開放水準、FTA加盟国のAD発動及び被発動状況、FTA加盟国の所得水準、FTA加盟国間の貿易規模などに注目した。本年度は、計量分析に必要なデータセットを構築し、予備的な分析を行った。その結果、FTAの市場開放水準が高く、FTA加盟国のAD発動実績が多く、先進国によるFTAにおいてADRIが高い傾向が確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、WTOに通報された315件の発効済みFTAのADRIを分析した結果、次のことが明らかになった。第1に、前述のようにFTAにおけるAD規定の類型は、まずNo rulesが59件(18.7%)である一方、Prohibitionは15件(4.8%)である。当然ながら、AD条項が存在しないNo rulesのFTAはADRIが0となり、ProhibitionのFTAはADRIが最も高い5となる。そして、WTO-equivalent類型とWTO-plus類型のADRIは、0.2から4.8までの値をとることになる。ADRIの平均を計算すると、WTO-equivalent類型は0.337で非常に低く、WTO-plus類型の平均ADRIは1.356であった。WTO-plus類型のFTAでもADRIの最大値が3であり、一部Prohibition類型の除き、全般的なAD制限度はまだ高くない。 第2に、本年度の研究では、計量分析を行う前の予備的分析として、t検定や分散分析を行い、各要因とAD制限度との関係を考察した。まず市場開放水準とAD制限度との関係を見ると、市場開放水準が高くなるほど、ADRIも相対的に高くなっていることが分かった。次に、ADRIの平均値は、途上国間で締結されたFTAに比べて、先進国間のFTAや先進国と途上国間で締結されたFTAの方がより高いことが分かった。そして、今回分析した315件の発効済みFTAのうち、約45%がヨーロッパ国間で締結されたFTAもしくはヨーロッパ国と非ヨーロッパ国間で締結されたFTAである。t検定の結果、ヨーロッパ国が加盟国に入っているFTAは、非ヨーロッパ国間で締結されたFTAに比べてADRIの平均が高いことが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
前出のように、本研究の目的は、発効済みFTAにおけるAD措置の制限度を新たな指標で測定し、どのようなFTAでAD措置の発動を制限するかについて計量分析で明らかにすることである。各FTAにおけるAD措置の制限度を示すADRIについては、分析フレームワークの開発が完了し、既に全ての発効済みFTAのADRIを算出した。また、どのようなFTAでAD措置の発動を制限するかについて分析するため、先行研究で示された要因を特定し、計量分析に必要なデータセットを構築した。今後の計画としては、分析モデルの精緻化と共に、文献研究を行って新たな要因を発掘し、FTAでAD措置の発動を制限する決定要因を実証分析で明らかにする。既に一部の要因についてはAD措置の制限度との関係を考察したが、計量分析モデルを用いて各要因とADRIとの因果関係を解明することが必要である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルスの影響により、国内外での移動が厳しく制限されたため、旅費の支出がなかったことなどの理由から次年度使用額が生じた。同様な理由で、人との対面を控えたため、人件費と謝金の支出をなかった。次年度には、韓国の中小企業を対象にアンケート調査を行い、FTAに関連する追加的な研究を行う予定である。
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