本研究は、WTO発足後に締結されて発効中の320件の地域間貿易協定(RTA)で導入されたAD条項を検証し、RTAでAD措置の制限に影響を与える要因を明らかにした。特に、本研究では新たに開発した反ダンピング制限指数(Anti-dumping Restrictiveness Index: ADRI)を用いて、RTAにおけるAD措置制限の度合いを可視化した。本研究では、既存の研究と異なり、RTAでのAD条項の有無を確認するだけでなく、ADRIを用いてAD措置制限の程度を計量化した。そして、ADRIを従属変数として用いて、回帰分析を行うことで、RTAにおけるAD措置制限要因を実証分析し、政策的含意を示した。 RTAに含まれるAD規定をタイプ別に見ると、AD措置に関連するWTO-plus条項を含むタイプが最も多く、次にGATTおよびAD協定で規定される権利と義務を維持し再確認するタイプが続いた。RTAでのAD措置の発動を制限する取り組みは、国や地域によって異なる傾向が見られる。しかし、2000年代に入ると、WTO-plus条項を導入しようとする動きが増加したため、ADRIの高いRTAも増えている。RTAで頻繁に見られる条項は、調査段階で政府当局の恣意的な運用を防止し、AD手続きの透明性を向上させるためのものが比較的に多い。 AD措置を制限するための要因を回帰分析した結果、自由化の範囲が広く、締結国のAD措置利用頻度が高いほど、RTAでAD措置を制限する度合いが大きいことが示された。逆に、締結国間の貿易規模が大きいほど、AD措置制限の程度は小さいことが分かった。また、締結国間に経済発展の差が存在する場合、開発途上国が含まれる協定よりも先進国間の協定でAD措置制限の程度が大きいことも分かった。最後に、ヨーロッパ諸国が含まれる協定ではAD措置の制限が大きいことも確認された。
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