研究課題/領域番号 |
19K01658
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
伊藤 恵子 千葉大学, 大学院社会科学研究院, 教授 (40353528)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 知識フロー・ネットワーク / 日本企業 / 特許 / 生産ネットワーク / 輸出管理 |
研究実績の概要 |
本研究は、国際的な生産・販売・調達など「財」のネットワークだけでなく、「知識」が国際間・産業間でどのように交換・共有されているかを明らかにし、知識フロー・ネットワーク内の位置と企業の技術力との関係を分析することを目的としている。 財・サービスの貿易ネットワークにおける相対的な位置と、貿易を通じた技術スピルオーバー効果との関係についての論文は、査読付き国際学術雑誌であるResearch Policyへの掲載が決定し、すでにWeb公開されている。 また、OECDが作成している特許の質指数を利用して、財・サービスの貿易関係と各国企業が出願している特許の質との関係を分析した。財・サービスの貿易において、より中心的なサプライヤーないし顧客となることは、より質の高い特許を出願したり、技術分野の多様性を広げたりする傾向を見出した。この分析結果を学会やワークショップ等で報告しながら、論文の改訂を進めている。 さらに、アメリカと中国の対立が深まる中、軍事転用可能な技術を利用した製品の輸出管理が各国で厳格化されつつある現状を踏まえ、輸出管理強化が貿易に与える影響についての研究・分析を行った。米国政府による直接外国製品規制強化は、米国由来の技術を使用した製品の日本からの輸出にも負の影響を与えていることを確認した。この分析結果は、日本貿易振興機構アジア経済研究所のディスカッションペーパーとして公表され、さらに査読付き国際学術雑誌であるInternational Economicsに掲載決定している。近年、半導体関連製品などの輸出の規制がさらに強化されているが、こうした規制は貿易に影響を与え、さらに企業の技術開発にも影響を及ぼす可能性が考えられる。貿易財に体化された技術に対する規制が、世界の技術知識のフローや技術開発力に与える影響について、さらに分析を拡張している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当研究課題に関連してこれまでに4本の論文を査読付き国際学術雑誌に掲載済み、ないし掲載決定した。当初は、令和4年度(2022年度)を最終年度として終了の予定であったが、2021年度までは、新型コロナのパンデミックのために、海外学会への参加や海外の共同研究者との打ち合わせなどを予定どおり実施できない状況であった。また、2022年度夏に全治1か月の負傷をしてしまったことから、予定していた出張をキャンセルせざるを得ず、一時的に研究が滞ってしまった時期もある。 しかし、その後は、引き続き、分析内容を発展させた研究を行っており、令和5年度中も、経済産業省が実施する『企業活動基本調査』などの個票データや日本企業の取引関係情報なども利用して、サプライチェーンを通じた技術や知識の伝播などについて分析を進める予定である。 このように、研究が若干滞った時期もあったため、研究期間を1年延長することとしたが、これまでの研究の進捗状況としては概ね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに特許データベース(PATSTATやOECDの特許の質指標など)と企業データを接続した分析を進めてきたが、引き続き、より頑健な分析結果を得るように改訂を進め、2023年度も国際学会での報告を予定している。そして、論文を完成させて、査読付き国際学術雑誌に投稿する。 また、日本企業・工場に関する政府統計個票データを利用申請して入手しており、企業の属性や財務情報に関するデータに、特許情報や企業間取引関係情報などを接続した分析を進める。デュアル・ユース技術(軍事転用可能な技術)を中心に輸出管理が強化されつつあることが、関連する産業の企業の売上や輸出入にどのような影響を与えるかといった分析も進めている。 2023年度は、海外渡航の制約もほぼ撤廃されたことから、海外学会での報告や海外渡航して海外の共同研究者と打ち合わせ等を行うことも予定している。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2、3年度(2020年度、2021年度)と、海外渡航が難しく、国際学会に対面で参加することがなかったため、当初計画していた海外旅費を全く使用しなかった。令和4年度(2023年度)は、海外学会にも参加したが、まだ制約があり、海外学会への対面参加は1回のみにとどまった。また、2022年8月に骨折してしまい、当初予定していたワークショップへの参加と共同研究者との打ち合わせのための海外渡航を中止せざるを得なかった。これらが、次年度使用が生じた主な理由である。令和5年度(2023年度)は、2回程度は海外渡航し国際学会で研究報告を行うことを予定しており、当初計画した金額を使用できる見込みである。
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