本研究では、企業間の取引関係を通じて、技術知識がサプライヤーや顧客にどう伝わるか、そして、企業間取引関係を変化させる出来事に際して、企業間関係がどのように影響を受けて変化するかを分析した。輸出開始が、各企業の生産品目構成を変化させることを示した論文と、知識フロー・ネットワークの中心に位置する国・産業で生産活動を活発に行う企業ほど特許出願数が多いことを示した論文を2022年度までに学術雑誌に掲載済みである。2023年度は、財・サービスの貿易ネットワークにおける相対的な位置と、貿易を通じた技術スピルオーバー効果との関係についての論文と、米国政府による輸出規制強化が、日本から中国への輸出にも負の影響を与えた可能性を論じた論文が、査読付き国際学術雑誌に掲載された。 2023年度は、貿易ネットワークにおける相対的な位置と出願特許の質との関係を分析した研究や、貿易財に体化された技術に対する規制が世界の貿易や技術知識のフローに与える影響についても、分析を進め、学会等で報告した。 また、企業間関係に何らかのショックが起きた場合に、サプライチェーンが受ける影響を分析するため、経営者の急死や急病による交代が、取引関係をどう変化させるかを分析した。その結果を学会でも報告し、サプライチェーンへのショックが、各企業の技術力に与える影響へと分析を拡張してきた。 そして、日本企業の生産性に関連し、特に非製造業の企業では生産性の停滞が続いていることと、市場集中度が上昇していないことを見出した。欧米では、デジタル関連産業で市場集中度が上昇し、新興企業の成長が妨げられているとの研究があるが、日本については、そのような現象は確認できなかった。取引関係の安定性と産業内のダイナミズムとの関係をさらに分析し、ダイナミズムの不足が技術水準の向上を妨げているのかの解明を進めている。
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