研究実績の概要 |
ポーター仮説によれば、「適切に設計された環境規制はイノベーションを誘発し、企業の国際競争力を高める」とされる。本研究の目的は、環境規制が企業の生産性にどのような影響を与えるのかを世界の企業データを用いて分析することである。同仮説の成立については賛否両論あるが、本研究の目的はこの問いに応えるとともに、どのような環境規制がどのような企業の生産性を上昇(低下)させるのかという、より精緻な問いへの答えを明らかにすることである。そのために、発展途上国を含めた国際企業データを使用して、環境規制が企業の生産性に与える影響をミクロ計量分析によって実証分析を行う。分析では、約3億件の企業データが収録されている、ビューロー・ヴァン・ダイク社の企業データベースOrbisの企業データが用いられる。同データとOECDによる「環境政策の厳しさ」(Environmental Policy Stringency, EPS)指数を組み合わせることで、環境政策の強化が企業の生産性に与える影響を検証した。その際、環境規制の影響が必ずしも線形であるとは考えられないことから、影響が非線形である可能性を考慮する。生産性の評価には、パラメトリックな効率性評価の手法である確率フロンティア分析を適用した。環境政策全体のEPSだけでなく、直接規制、税、排出量取引、R&D補助金による非線形の影響も検証した。潜在的な内生性の問題に対処するために、EPSの予測値を用いた推計も行った。EPSがそれぞれの閾値を超えた場合、全体と個々の環境政策手段で強いPHが成立することが示された。また、政策別、産業別の実証結果も定性的にはほぼ同じであった。この結果は、環境規制が一定水準以上に強化された場合に強いポーター仮説が成立することを裏付ける。
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