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2019 年度 実施状況報告書

アジアの脱工業化による産業構造変化と中所得国の罠の実証研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K01663
研究機関京都産業大学

研究代表者

大坂 仁  京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2023-03-31
キーワードアジア経済 / 脱工業化 / 産業構造変化 / 中所得国の罠
研究実績の概要

本研究課題を遂行する上で、今年度はアジアの脱工業化と産業構造変化、および中所得国の罠に関する文献・先行研究レビューを行った。これらの先行研究をもとに、初期段階として予備的なデータ分析を行い、今後検証を重ねるべき興味深い回帰結果を得ている。
世界銀行のデータを用いてアジア途上国の脱工業化について回帰分析したところ、説明変数とした1人あたりGDPとその平方値が統計的有意性を示し、被説明変数の工業化を示す変数と逆U字の関連性が示された。また、説明変数の中で中等教育就学率と高等教育就学率がそれぞれプラス効果とマイナス効果を示すなど、工業化について教育に関する変数は異なる効果を示すことになった。更に、東アジアと南アジアの地域別、また10年ごとの年代別のダミー変数を用いたところ、それぞれの推定値に興味深い結果が示されている。これらの回帰分析の結果をまとめると、次の知見と含意が得られる。
まず、アジアにおいてGDPおよび労働者の比率で未熟な脱工業化がみられる。この脱工業化の逆U字曲線はGDP比率より労働者比率でより顕著であり、また工業化から脱工業化への転換点は通時的に低下している。更に、脱工業化の転換点は東アジアに比べて南アジアで低くなっている。つまり、アジアにおいて所得水準の低い途上国でより未熟な脱工業化がみられる結果となっている。
これらは先行研究の結果と同様であり支持するものであるが、今後の課題も残されている。本研究による予備的な回帰分析では工業部門全体のデータを用いたが、本来であれば製造業部門のデータによる分析が望ましい。また、回帰分析ではプーリングデータによる分析を行ったが、より長期で幅広いデータを収集することで時系列データ分析やパネルデータ分析による頑健な分析が可能となる。これらの課題は次年度の研究で明らかにしていきたい。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本研究課題を遂行する上で、今年度はアジアの脱工業化と産業構造変化、および中所得国の罠に関する文献・先行研究レビューを行った。まず、Rodrik (2015)は未熟な脱工業化として、多くの途上国が十分に生産性向上を果たす前に脱工業化という産業構造変化を迎えることに注目している。一方で、Gill and Kharas (2015)などは、中所得国が所得水準を上げることができずに低迷しているとして「中所得国の罠」に陥っていることを実証分析で検証を行った。これらの先行研究を通して、アジアにおいても脱工業化の産業構造変化と中所得国の罠の関連性は重要な分析課題であることが想定される。実際に多くのアジア途上国は、これまでの先進工業国の成長プロセスに従って段階的に経済発展してきたが、工業からサービス業へ産業構造の比重が移行する脱工業化の際に必ずしも生産性向上を成し遂げた国ばかりではない。このような経済発展プロセスにおいて未熟な脱工業化がみられるアジア途上国の存在は、今年度の予備的なデータ分析において限定的ながら明らかにすることができた。以上の研究成果を踏まえて、現在までの進捗状況はおおむね順調に進展していると判断している。
(参考文献)
Gill, Indermit S., and Homi Kharas (2015), “The middle-income trap turns ten”, World Bank Policy Research Working Paper 7403, Washington, D. C.: World Bank.
Rodrik, Dani (2015), “Premature deindustrialization”, School of Social Science Economics Working Papers, Paper Number 107.

今後の研究の推進方策

次年度は今年度に引き続き、アジアの脱工業化と産業構造変化、および中所得国の罠に関する文献・先行研究レビューを行う。これらの先行研究はおおむね実証分析による検証が多いが、本研究課題では理論的な側面からも未熟な脱工業化や中所得国の罠の分析を行っていく。特に、経済成長に関する収束論や内生的経済成長論も再考し、アジア途上国の現在の経済発展状況の理論的な分析を試みる。
また、今年度の予備的なデータ分析の結果を踏まえて、アジアにおける産業構造変化と生産性格差の実証分析を継続して行っていく。具体的に、アジアの産業構造変化と生産性格差の実証分析に必要なマクロ経済データに関して、可能な限り長期にわたる時系列データやパネルデータの収集を行う。更に、収集したデータをもとに実証分析の枠組みを検討し、計量分析などを行っていく。なお、実証分析を行うために必要な時系列データ分析やパネルデータ分析における最新の分析手法について先行研究レビューを行うとともに随時分析手法を検討していく。

次年度使用額が生じた理由

今年度の研究計画では、資料・データ収集や情報交換のためのアジア各国や国際機関への海外出張・調査を授業の少ない2月と3月に予定していたが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による海外渡航の禁止措置のため中止することにした。また、年度内に購入を予定していたパソコン(PC)は機種が在庫切れとなったため次年度の購入へ予定を変更することになった。
現時点において、次年度も新型コロナウイルスの世界的な感染拡大の影響が継続すると予想されるため、海外出張による資料・データ収集や情報交換においては予定の目途が立てられない状況にある。このため、テレビ会議システムの導入によって海外研究者や国際機関の担当者との情報交換や資料・データ収集を計画しており、当初より高度な機能を持つパソコン(PC)を購入する予定である。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大が停止し、海外渡航が可能となった際には、当初予定していた国際学会などへの参加も検討する。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2019

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] アジアにおける未熟な脱工業化の再考2019

    • 著者名/発表者名
      大坂仁
    • 学会等名
      九州経済学会

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公開日: 2021-01-27  

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