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2022 年度 実施状況報告書

アジアの脱工業化による産業構造変化と中所得国の罠の実証研究

研究課題

研究課題/領域番号 19K01663
研究機関京都産業大学

研究代表者

大坂 仁  京都産業大学, 経済学部, 教授 (90315044)

研究期間 (年度) 2019-04-01 – 2024-03-31
キーワードアジア経済 / 脱工業化 / 産業構造変化 / 中所得国の罠
研究実績の概要

本研究課題について、昨年度に引き続き先行研究レビューを行い、また国際データを用いて計量分析を行った。まず、中所得国の罠に関して、懐疑的な先行研究の多くは罠ではなく成長スピードの停滞、またその要因の分析に着目している。例えば、Felipe, Kumar and Galope(2017)は罠の存在を否定して、経済成長の停滞と位置付けてその要因の解明を行っている。
なお、本年度も世界銀行のデータを用いて実証的な分析を行ったが、その結果の一つとして、アジア諸国を含む中所得国の経済成長率は全体的に高所得国のものよりも高く、国際データによる記述データ分析では中所得国の罠の存在を確認することができなかった。また、アジアにおける経済成長と産業構造変化の関連性を計量的に分析した結果、工業化が経済成長の促進に寄与してきたものの、更なる経済成長に向けて脱工業化などの産業構造変化がみられることがわかった。先行研究で指摘されるように、通時的に低水準の所得レベルで脱工業化が開始される傾向にあることもデータ分析によって明らかにされている。本年度の研究では、経済成長に伴う工業化の要因として人口、投資、人的資本(教育年数)(いずれもプラス効果)が挙げられ、脱工業化の要因としても投資、人的資本(いずれもプラス効果)の可能性を強く示唆する結果が得られた。これらの結果は、工業化には労働投入、また脱工業化には教育などによる人的資本形成が影響することを示している。
(参考文献)
Felipe, Jesus, Utsav Kumar, and Reynold Galope (2017), “Middle-income transitions: trap or myth?”, Journal of the Asia Pacific Economy, vo. 22, no. 3, pp.429-453.

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

3: やや遅れている

理由

本年度もコロナ禍の影響によって国内外の出張を予定通り実施できなかったが、昨年度までの経験をもとに、インターネットを活用することにより資料やデータの収集を補完的に行った。特に、インターネットなどにより収集したアジアの国際データを用いてマクロ経済データによる計量分析を行ったが、本年度の実証分析では、前項目で記載したように中所得国の罠の存在を支持しない先行研究を補足する結果が得られている。例えば、Aiyar, Duval, Puy, Wu and Zhang(2013)は条件付き収束論に基づき、中所得国の経済成長が予想される軌跡から外れる要因として、組織、人口、インフラ、マクロ経済環境、生産や貿易構造などを考察している。このように、先行研究の中には中所得国の罠の存在を肯定するより、経済成長の停滞として位置付けてその要因の解明を行っている分析があり、本年度の実証分析では先行研究で用いられた一部の変数を用いて同様な帰結を得ている。
しかしながら、本年度においてもコロナ禍のために国内外の出張が予定通り実施できず、関連資料やデータの収集などで制約を受けることになった。特に、アジアの脱工業化と生産性格差における計量分析に遅れが生じており、今後は精力的にこれらの分析を行っていくためにも国内外への出張は重要である。いずれにしても、当初の予定より研究の進捗状況はやや遅れていると判断している。
(参考文献)
Aiyar, Shekhar, Romain Duval, Damien Puy, Yiqun Wu, and Longmei Zhang (2013), “Growth slowdowns and the middle-income trap”, IMF Working Paper, WP/13/71, 2013 March.

今後の研究の推進方策

今後の研究では、コロナ禍による影響で分析が遅れているアジアの脱工業化と生産性格差の問題を取り上げていく。現在、新型コロナウイルス感染症の感染状況が落ち着いているため、当初の研究計画に基づいて資料およびデータ収集のため国内外の出張を行う予定である。特に、計量分析に必要なマクロ経済データに関しては、世界銀行などの国際機関のデータベースに加えて、途上国の個別データも幾つか収集して長期にわたる時系列データやパネルデータの分析を試みる。これらの分析に関して、最新の時系列データ分析やパネルデータ分析の分析手法について情報を入手し、先行研究を参考に理解を深めていく。
また、先行研究レビューも引き続き行い、本研究課題に関する最新の研究動向を把握していく。なお、国内外の研究者と研究内容について情報交換を行っていくなど、これまでの研究における分析結果を整理し、今後のアジアの持続的な経済成長へ向けた考察と将来的な展望を行う。

次年度使用額が生じた理由

本年度も昨年度に引き続き、コロナ禍の影響によって国内外の出張の一部に支障が生じたため、主に支出しなかった出張分の予算を次年度に繰り越すことになった。現在、新型コロナウイルス感染症の感染状況が改善しているため、次年度は当初の計画に基づき国内外の出張を行う予定である。特に、国外への出張では、国際機関などにおいて資料やデータを収集するほか、国外の研究者と情報交換などを行う予定である。また、国際学会などへの参加も検討している。
一方、コロナ禍の感染状況が再び悪化した場合には、状況に応じて国内外の出張を取りやめ、必要な代替措置を講ずるなど対応策を通して研究を遂行していく予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2022

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] アジアにおける中所得国の罠の現状と課題2022

    • 著者名/発表者名
      大坂仁
    • 学会等名
      九州経済学会

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公開日: 2023-12-25  

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