研究課題/領域番号 |
19K01667
|
研究機関 | 小樽商科大学 |
研究代表者 |
池田 真介 小樽商科大学, 商学部, 教授 (90598567)
|
研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2022-03-31
|
キーワード | 自殺 / 孤独 / 孤立 / 実証研究 |
研究実績の概要 |
2019年度は、以下の諸点で研究計画の遂行を試みた。 第一に、孤立リスクに関する国内外の専門論文をサーベイし、自らのあるべき社会的接触の度合いと現状のギャップに対して主観的に抱く感情としての「孤独」(loneliness)と、社会的接触の頻度としてある程度客観的に定義可能な「社会的孤立」(social isolation)の区別を把握した。本邦でも厚生労働省は主として後者の意味を、孤独死ではなく「孤立死」の定義の際に用いている。また、公衆衛生分野での実証研究にあたり、孤独・孤立のいずれもが健康上のリスクとなっていることを把握した。さらに、孤独・孤立が薬物依存の引き金や回復の妨げとして働いている可能性を、最近のメディアで取りざたされる有名人の事例(田代まさし氏や清原和博氏)のケーススタディで分析した。 第二に、UCLAのloneliness scale(孤独指数)を測るための諸質問を流用し、研究代表者が所属する大学の新入生を対象とした小規模のアンケート調査を実施した。標本数は極めて小さく、英語の質問が理解できる・女性比率が校内平均より高い、などという偏りはあるが、若年層の男女の孤独・孤立に関して予想以上に豊富な情報が得られること、しかし日本のより自殺リスクが高いと思われる中高年層の男性に対しては孤独だけでなく孤立の度合いも把握できるように質問内容をより精査・改善・拡充する必要性が示唆された。 第三に、研究代表者の市区町村データベースのプログラム面での改善を試みた。研究計画の大きな柱の一つである経済変数の階級データが含まれる全国消費実態調査は、e-statから直接ダウンロードできるもの、アイ・エヌ情報センターからのもの、総務省統計図書館所蔵の冊子から手打ちで作成したものを組み合わせており、細部の突合に不具合があった。これを実装するプログラムコードを適宜改善・修正した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
質的調査の予備的なアンケート調査は小規模ながら試みられた。また、自殺のリアルオプションモデルの数値計算プログラムの改善を行っている。市区町村データ解析のプログラムコードも断続的に手直ししている。しかし、研究計画書の孤立死データの収集は進んでおらず、データベースのプログラムコードの改善は完了しているとは言えない。さらに、年度末のコロナ禍により研究が凍結されたこと、また大学授業のオンライン化への対応に伴う教育準備負担の増大が響いている。
|
今後の研究の推進方策 |
第一に、学生アルバイトの雇用が必須である。研究者の健康上の問題(緑内障初期症状の疑いあり)のため、長期間コンピューターの画面を見ることができず、データ整理の速度が落ちている。研究代表者の勤務校は高度な実証・データ研究を行う大学院生を養成する教育プログラムが存在しないため、学部のゼミ生から優秀な人材を探すことになる。
第二に、内外の孤独・孤立に関するアンケート調査の設問を収集し分析することが肝要である。特に欧米の文脈で作成された設問を日本の地方の中高年層にそのまま当てはめることは慎まねばならない。当該層の孤独・孤立リスクを抽出し効率的に把握するための質問や言葉遣いを分析し、また幾度かのパイロット調査を行う必要がある。
|
次年度使用額が生じた理由 |
年度末に高性能のノートパソコンを購入する予定であったが、コロナ禍によるキャンパスへのアクセス制限やテレワーク需要の急増により発注する機会を逸してしまった。また信頼に足る学生アルバイトが見つからなかったため人件費も余ってしまった。
|