本研究では、所得格差の存在や拡大が経済の成長経路や長期的均衡に及ぼす影響について分析を行う。そして、現在、拡大している国内外の所得格差が、経済成長や経済厚生にどのような影響を及ぼし、またどのような政策が有効であるかを明らかにすることを目的とする。 2022年度は、国際的な資産市場や資本移動が存在しないと仮定したもとで、初期資本量が各国の資本蓄積と貿易パターンにどのような影響を及ぼすかについて分析を行う、2国2財2要素の動学的ヘクシャー・オリーンモデルを拡張し、国際的な資産市場と非貿易財が存在するモデルにおいて、生産の外部性を導入したモデルの分析を行った。 本モデルには、自国と外国の物的資本および自国と外国の金融資産の合計4個の状態変数が存在し、生産の外部性が無い場合には、特性方程式には0の固有値が2個と負の固有値が2個あることから、鞍点安定な動学的均衡経路が発生することが分かっている。生産の外部性がある場合には、負の固有値が増加することで、均衡経路の不決定性が発生する。 本モデルで発生する不決定性とは、初期の自国と外国の物的資本量と資産量が与えられたときに、どのような均衡経路をたどり、連続的に存在する定常均衡のいずれに収束するかが決定できないことを意味しており、経済主体の予想に応じて経済が変動する状況をモデル化している。 不決定性が発生する条件について詳しく分析し、その経済学的含意について検討を行っている。
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