本研究では、所得格差の存在や拡大が経済の成長経路や長期的均衡に及ぼす影響について分析を行う。そして、現在、拡大している国内外の所得格差が、経済成長や経済厚生にどのような影響を及ぼし、またどのような政策が有効であるかを明らかにすることを目的とする。 そのため、国際的な資産市場や資本移動が存在しないと仮定したもとで、初期資本量が各国の資本蓄積と貿易パターンにどのような影響を及ぼすかについて分析を行う、基本的な2国2財2要素の動学的ヘクシャー・オリーンモデルを拡張し、国際的な資産市場と非貿易財が存在する動学的貿易モデルを構築し理論分析を行った。 その結果、貿易不可である消費可能な資本財と消費財の間の資本集約度の違いが非常に重要であることが分かった。主に得られた結果は、資本財が労働集約的である場合には、長期的には物的資本が多い国は金融資産が少なくなること、集約度が逆の場合には、長期的に物的資本が多い国は金融資産も多く保有し、また、その際には、初期に物的資本を豊富に有することは、必ずしも長期的な厚生水準の上昇にはつながらないことなどである。さらに、家計の選好が線形に近い場合には、初期時点において、物的資本を貿易相手国よりも多く保有し、かつ金融資産を持つ債権国が、長期的には資本保有量が相手国よりも少なく、かつ債務国となるという状況が起こることが分かった。 上記のように、本研究で構築された動学的貿易モデルにより、非貿易財の資本集約度と家計の選好が、貿易による各国の経済成長への長期的な影響に深くかかわっていることが判明した。
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