研究課題/領域番号 |
19K01683
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研究機関 | 東京理科大学 |
研究代表者 |
坂本 徳仁 東京理科大学, 教養教育研究院野田キャンパス教養部, 准教授 (00513095)
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研究分担者 |
吉原 直毅 高知工科大学, 経済・マネジメント学群, 客員教授 (60272770)
後藤 玲子 一橋大学, 経済研究所, 教授 (70272771)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 福祉指標 / 選択機会の価値 / 非帰結主義 / 厚生経済学 / 社会選択理論 |
研究実績の概要 |
2021年度の研究実績の概要は以下の3点である。 第一に、2020年度に研究代表者が発見し、公理的に特徴づけた「一般化レキシミン」の研究論文を学術誌で公刊できるように現在改訂中である。 第二に、極端な公平性の条件として知られる強ハモンド衡平性(二人の個人の間の所得や厚生水準に格差がある場合、相対的に富裕な個人がどれほどの犠牲を払うことになろうとも両者の格差を縮小することは社会的に望ましいという要請)と連続性が本質的に両立できないことを証明し、その結果を研究ノートの論文に現在まとめている段階にある。 第三に、以前のインドでの貧困実態調査のデータを用いた比較分析の結果に、新たな分析を加えて現在論文にまとめている。新たな分析では、マーク・フローベイ教授らが中心となって提唱・実践している等価所得アプローチ(単純に所得水準で個人間の福利を比較するのではなく、「現在の消費状況」と「外生的に与えられた参照基準」になる場合と等しい効用水準をもたらす仮説的な所得水準で個人間の福利を比較するアプローチ)が理論的には優位性原理を侵害する事態(個人Aが個人Bよりも消費・健康・教育年数などのすべての生活の次元で上回っているにも関わらず、等価所得による生活水準の比較では個人Bが個人Aよりも厚生が高いと判断される状況)が生じるため、その発生頻度を計算した。その結果、優位性原理の侵害が生じない単純な所得による厚生比較や多次元貧困指標による厚生比較と比べて、等価所得では30%前後の水準で優位性原理の侵害が生じることを確認した。この結果をまとめたものはワーキング・ペーパーとして近々公開する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究代表者の理論と実証の分析においては、順調に結果が得られている。その一方で、2021年度のインドでの訪問面接調査はコロナ禍の各種規制のため、事実上不可能になり、断念せざるを得なくなった。その補填措置として、現時点で利用可能なデータを用いて実証可能な研究計画を進めることとした。以下、現在までの進捗状況を3点にまとめる。 第一に、研究代表者の発見した一般化レキシミンの論文は学術誌で公刊できるように投稿・改訂の作業に努めた。とくに、証明の一部に分かりにくいと指摘された箇所があったため、その部分を改訂し、全体的な証明の流れが分かりやすくなるように工夫している。 第二に、標準的な公理として知られている連続性(社会評価は変数の小さな変化に対して大きく変化することはないという要請)と強ハモンド衡平性(二人の個人の間の所得や厚生水準に格差がある場合、相対的に富裕な個人がどれほどの犠牲を払うことになろうとも両者の格差を縮小することは社会的に望ましいという要請)が両立不可能であることを証明した結果を研究ノートとしてまとめて学術雑誌に公刊することを目指している。 その一方で、潜在能力アプローチの理論分析は、他の理論研究に予想以上に時間を取られることになったため、2021年度中に思うように進めることができなかった。また、2021年度はコロナ禍による各種制限のために海外渡航も調査もできる状況には全くなかったため、予定していた貧困調査は取りやめとし、国内外で利用可能なデータを用いて、実行可能な実証分析を行う方向に切り替えた。その成果の一つとして、従来行ったインドでの調査データを用いて、等価所得アプローチの優位性原理の侵害割合を分析したものがある。この研究成果はワーキング・ペーパーとして近々公開予定であり、適宜、学術媒体での公刊を目指すこととする。
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今後の研究の推進方策 |
得られているすべての研究成果については、順次ワーキング・ペーパーにまとめ、国際学会・研究会で報告し、学術雑誌での公刊を目指すこととする。 理論的な研究については、第一に、「一般化レキシミン」の実践的な応用例である分位平均比較法と区間人口比比較法を諸外国の状況比較や多次元の変数(とりわけ潜在能力アプローチ)に応用するための新たな枠組みを検討し、機会の価値や非帰結主義的な評価の実践的な応用の方法論を整理・分析する。 第二に、2021年度中に予定通りには進めることができなかった潜在能力アプローチの理論研究を完成させるために、研究分担者の吉原氏、後藤氏の協力のもとで共同研究を強力に進め、ワーキング・ペーパーにまとめる。とくに、選択機会の平等を表現する二つの概念(潜在能力集合の「評価値の平等」と「共通部分の極大化」)の違いがもたらす数学的な性質を明確化することで、望ましい選択機会の評価の在り方を理論的に整備する。 実証的な研究については、利用可能な公開データを用いて、GDPに代わる標準的な手法とされる、①生活満足度・幸福度、②多次元貧困指標、③合成指標、④等価所得アプローチの4つの手法と、研究代表者の考案した優位性原理を満たしつつ、全員一致の評価を反映することが可能なコンセンサス・アプローチを用いた福利比較の手法を分析する。その際、等価所得アプローチのもとで生じうる優位性原理の侵害の問題が集団の属性や、所得区分でどの程度深刻なものになるのか解明し、個人の評価を最大限取り入れる福利比較のアプローチがもつ欠点を詳細に分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度もコロナ禍によって調査予定国であったインドへの海外渡航も訪問面接調査も事実上困難な状況にあった。①インドでの調査時期の延期・変更、②サンプルにさまざまな欠陥・制約を抱えている上に費用もかかる「電話調査」や「ウェブ調査」への切り替え、③日本国内での調査実施の可能性、などのさまざまな選択肢を比較・検討した結果、現時点で入手可能な公開データや自前のデータを用いて本研究の調査目的に適う実証分析を行うこととし、調査費用を持ち越すこととした。2022年度は海外渡航が可能になる環境に代わりつつあるため、共同研究を円滑に遂行するための渡航・往来の費用として残額を使用する予定である。
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