研究課題/領域番号 |
19K01684
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
田村 晶子 法政大学, 比較経済研究所, 教授 (30287841)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 直接投資戦略 / 戦略不全企業 / ゾンビ企業 / 国際競争力 / 投資マネジメント |
研究実績の概要 |
本研究の学術的な問いは、国際競争力を高めるための企業の投資戦略はどのようなものかを解明することである。特に、従来の研究では除外されてきた、戦略不全に陥っている企業を分析対象に含める。戦略不全企業は、利益を多くみせようとする利益調整を行うことで生き延びている可能性が高いため、「ゾンビ企業」の測定に関わる一連の研究を参考に、ゾンビ企業と企業の受身型傾向との関係を分析する。 本年度は、「企業は、受身型傾向(戦略が機能しなくなる)が強まると、ゾンビになりやすくなる」という仮説の実証分析を行い、結果を日本管理会計学会全国大会で報告した。まず、共同研究者の清水信匡他が行った日本の製造業企業へのアンケート調査(2016年)から、投資戦略タイプの傾向として、防衛型傾向、探索型傾向、分析型傾向、受身型傾向を、様々な指標により調べた。そのサンプル企業に関して財務データを調べ、一定期間(2014-16、2016-18)の平均値で、企業のゾンビ化傾向を測った。具体的には、インタレスト・カバレッジ・レシオ=(営業利益+受取利息+受取配当金)÷(支払利息+割引料)を、負の対数変換した指標を企業のゾンビ化傾向を測る尺度として採用した。戦略タイプの傾向と「企業のゾンビ傾向」との関係を、ビジネス環境(不確実性、市場の複雑性、技術の複雑性、激しい競争)、企業規模、産業特性をコントロールした上で分析した。 実証分析の結果、受身傾向は、インタレスト・カバレッジ・レシオの2014年~2016年平均、2016年~2018年平均とも、有意に負の相関があり、受身傾向が強いほどインタレスト・カバレッジ・レシオが低下し、ゾンビ傾向が強まることがわかった。また、防衛傾向は、受身傾向より推定値と有意性は低いものの、インタレスト・カバレッジ・レシオと負の相関があり、防衛傾向でもゾンビ化傾向が強まるという結果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、共同研究者の清水信匡他が行った日本の製造業企業へのアンケート調査(2016年)から、投資戦略タイプの傾向を調べ、さらに、アンケート調査のサンプル企業について、2014年~2016年平均、2016年~2018年平均の財務データを集め、「ゾンビ企業」とされる指標を計算し、投資戦略タイプとの関係を分析した。実証分析の結果、受身傾向が強いほどインタレスト・カバレッジ・レシオが低下し、ゾンビ傾向が強まることがわかった。さらに、防衛傾向は、受身傾向より推定値と有意性は低いものの、防衛傾向でもゾンビ化傾向が強まるという結果となった。そこで、戦略不全の受身型企業だけでなく、防衛傾向の企業もインタレスト・カバレッジ・レシオが低下してしまう原因について、さらに分析する必要がある。 今回は、ビジネス環境(不確実性、市場の複雑性、技術の複雑性、激しい競争)、企業規模、産業特性をコントロールした上で回帰分析を行ったが、受身型企業が強い企業が「ゾンビ企業」になるのか、「ゾンビ企業」になった企業が受身型傾向を高めるかなど、時系列データのより厳密な分析が必要となる。また、「ゾンビ企業」が適切な投資戦略(探索型、防衛型、分析型)により復活する可能性についても分析を始めている。 今年度行ったアンケート調査による分析ではサンプル数が少ないため、引き続き、財務データを用いて企業の戦略傾向を計測する手法を確立し、分析対象となるサンプル企業を増やす方策を模索する。
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今後の研究の推進方策 |
アンケート調査による分析ではサンプル数が少ないため、引き続き、アンケート調査に加えて、企業の財務データを分析して企業の戦略傾向を測定する作業も続け、特に戦略不全企業である受身型企業の戦略傾向の測定に関して、どのようなデータが有効かについての精査を行う。その上で、戦略不全企業と「ゾンビ企業」の関係、「ゾンビ企業」の投資マネジメントについて検討する。さらに、他の機能的な戦略(探索型、防衛型、分析型)により「ゾンビ企業」が復活することがあるのか、理論的、実証的な分析を進める。逆に、戦略不全企業ではない防衛型企業でもゾンビ化傾向が強まるとの結果が出ているため、その原因についても分析を進める。 また、「ゾンビ企業」と定義される指標を、今年度行った金利支払い能力を重視した指標(インタレスト・カバレッジ・レシオ等)に加えて、経済パフォーマンスも考慮した福田・中村(2011)等の研究を参照して、検証を続ける。 今までの研究では、企業の投資戦略タイプにマッチした投資マネジメントについて分析し、どのように企業の収益率を高めるのか分析を続けてきた。それぞれの投資戦略タイプにマッチした投資マネジメントを調査し、どのような投資マネジメントが企業の業績を高めるかに加えて、どのような投資戦略とマネジメントが「ゾンビ企業」を復活させ、国際競争力を高めるのかについて分析を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は、共同研究者の清水信匡他が2016年に行ったアンケート調査のサンプル企業について財務データを整備し、戦略不全企業と「ゾンビ企業」の関係について実証分析を行い、その成果を日本管理会計学会全国大会で報告し、多くのコメントをいただくことができた。そのコメント等に基づき分析を進めて、査読付き雑誌への投稿を目指す。また、今年度もコロナ禍の影響により国際学会で報告することができなかったが、次年度は、本年度に整備されたデータを使った分析をさらに進め、その成果を国際学会に参加し、報告して、他の研究者からのコメントを受けて改善した上で、査読付き雑誌への投稿を行う。
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