研究実績の概要 |
OECD諸国では、高学歴女性の就業率は、高学歴でない女性の就業率よりも大幅に高い場合が大半である。一方で日本では、大卒女性の就業率が高卒女性の就業率とほぼ同程度か、やや低い場合もあった。たとえば2000年には、OECD平均では高学歴女性のほうが高学歴以外の女性よりも26%程度就業率が高いものの、日本ではそれがほぼ同水準である(OECD (2002), "Women at Work: Who Are They and How Are They Faring?", in OECD Employment Outlook 2002, OECD Publishing, Paris, https://doi.org/10.1787/empl_outlook-2002-4-en)。この高学歴女性の就業率が低い原因が、大卒女性の夫の所得が高いと妻の就業が抑制される、所得効果によるものであるのかどうかを、2007年就業構造基本調査の匿名データを用いて検証した。分析方法には、以下の2点の特徴がある。第1に、就業のうち正規雇用と非正規雇用のそれぞれについて、どの程度所得効果があるのかを検討した。第2に、所得効果を所得の水準に応じて柔軟に推計する定式化を行なった。分析の結果、正規雇用・非正規雇用に分けると、所得効果は小さいことがわかった。つまり、夫の所得が上昇しても、妻の正規雇用就業率や非正規雇用就業率は大きくは低下しない。さらに、所得効果やその他の労働供給要因(妻の年齢、3大都市圏に居住するかどうか、子どもの年齢構成)では、大卒と高卒の女性の就業率の差を説明できないことがわかった。言い換えると、日本において大卒女性の就業率が高卒女性に比べて高くないのは、所得効果によるものではない。この成果を、2021年9月14日の労働経済学コンファレンス(オンライン開催)にて発表した。
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