研究課題/領域番号 |
19K01694
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
中村 和之 富山大学, 学術研究部社会科学系, 教授 (60262490)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 所得分布 / 一般化ローレンツ曲線 / 複数属性 |
研究実績の概要 |
本年度は研究計画にしたがって以下の研究に取り組んだ. まず,等価尺度を用いて属性が異なる主体の厚生比較を行うための手法の一般化とその応用に取り組んだ.世帯人員が異なる家計からなる社会厚生を分析する際,等価尺度を用いて家計所得を比較可能な形に変換した上で社会厚生に関する支配関係の有無を検証することが一般的である.この問題に関して,Ebert(1999)は二重確率行列を拡張した概念(m-確率行列)を用いて支配関係の有無をテストする手法を示した.本年度の研究では,彼が示した方法を比較対象となる家計の規模や世帯構成が異なる場合も分析できるように拡張するとともに,その支配関係の有無を線形計画問題を解くことによって検証できることを示した.さらに,得られた分析手法を所得分布の比較以外の他の分野にも応用できることを示すために,日本の都市における小売店舗の分布を2011年と2016年の2期間で比較した.この成果はひとまずワーキングペーパーとして公表した. 第二に,研究初年度より取り組んでいた公共財の自発的供給と所得分布の関係を明らかにする研究を取り纏めてワーキングペーパーとして公表した.これまでも,Bergstrom et al.(1986)をはじめとする多くの研究によって所得格差の拡大が社会における公共財の自発的供給量を増加させることは示唆されていたが,本研究ではこれを逆一般化ローレンツ曲線の比較による支配基準を用いて定式化した.さらに,Bourguignon(1989)の結果を応用して,家計の異質性が存在する場合であっても,修正された逆ローレンツ曲線の逐次的な比較によって公共財の自発的供給量を比較できることを示した. 第三に,昨年度より取り組んでいた,SDGsのような多数国を多元的な厚生評価指標に基づき評価する際の評価順位の上限と下限を明らかにする研究に取り組み,大よその完成をみた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた複数属性を反映した社会厚生の評価手法の開発は,分析手法の核となる概念や具体的な分析手法について,ひとまず目途をつけることができた.今後は得られた結果を既存の文献や研究成果に沿って位置づけるとともに,開発した評価手法が実務的な使用に耐えられるように簡便な形で提示することに取り組む.さらに,逐次的な一般化ローレンツ支配基準を複数属性に拡張することについても主要な結果を得ることができている. 第二に,開発した分析手法を応用できる分野やテーマについても本年度の研究によって,"Sustainable Development Report"やわが国の「統計でみる都道府県・市区町村のすがた(社会・人口統計体系)」をベースとした応用研究に取り組みことができ,その活用や有用性に目途をつけることができた.今後は国内外のデータベースを利用した開発した手法の応用事例を積み重ねる. 第三に,本研究のフレームを発展させる形で公共財の自発的供給や等価尺度の選択など新しく取り組むべき課題を発見することもできた. これらのことから,新型コロナウィルス感染症の拡大による研究集会の減少や教育をはじめとする研究外活動に投ぜられるエフォートの増加と言った要因はあったものの,研究は概ね順調に進展していると判断した.
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今後の研究の推進方策 |
第一に,昨年度までに得られた研究成果の完成と発信に取り組む.まず,本年度ワーキングペーパーとして公表した公共財の自発的供給と所得分布の関係を研究した成果は学術雑誌への掲載を目指す.多元的な評価指標からなる合成指標を用いた評価順位の上限と下限に関する研究についてはその研究成果をとりまとめた上で公表を目指す. 第二に,昨年度までに大よその完成をみている逐次的一般化ローレンツ支配基準を複数属性に拡張する分析についても,ひとまず完成させたうえで公表する. 第三に,これまでの研究で得られた成果を包括的な形で公表するとともに,応用事例を提示することで実務的な有用性を発信する.
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症の拡大に伴い,研究集会や学会が中止,またはオンラインに切り替えられたことにより,当初,予定していた旅費が不要になった.これに伴い本年度の研究活動を研究者との意見交換や情報収集から,データ分析にシフトさせるために大規模データを扱えるソフトウェアを購入したが,差し引きで余剰が生じた.また,当初,数値計算用ソフトウェアのアップグレードを予定していたが,所属機関でのライセンス契約を利用することで不要になった.これらの要因により次年度使用額が生じた. 余剰額は研究成果を公表するための英文校正や研究集会への参加,研究活動に資する消耗品の購入に使用する予定である.
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