税制は社会全体に広く深く関わりがあるが,企業行動にどのような影響をどの規模で及ぼしているのか?現在の政策デザインの現場ではエビデンスがより重視されてきており,税制改正が毎年行われる政策環境で経済学者が政策をインフォームする余地は大きい.本研究は中小企業税制と企業統合行動に着目する.中小企業税制は中小企業の成長にどれほど貢献しているのか,また,阻害要素はないのかを問う. 22 年度は主に税制の企業統合行動への影響の実証分析を進めた.合併買収などの企業統合へ税的要因が左右するか分析する際,企業同士のマッチング度を考慮すべきであるが,マッチング市場の理論と整合性のある推計手法はこれまで用いられてこなかった.この問題を克服するため,本研究は,Matching Maximum Score Estimator(MMSE)の応用を試みる.昨年度に行ったモンテカルロ法を用いたシミュレーションでは推定パラメター数の増加が,信頼区間の過大評価につながることを観測した.本年度では,シミュレーションと日本のデータを検証することを通じて,この過大評価の原因が,MMSEで用いられているDifferential Evolution Algorithmの収束問題に起因していることを特定し,パラメター探索区間に適応アルゴリズムを導入するという対処法を考案した.これにより,精度の高い推計を行うことに成功した.この発見は,オーストラリア国立大学に客員教員とし訪問し共著者と密な研究打ち合わせを行うことができた成果である.国際学会で2件を含む,3件の口頭報告を行った.関連論文3本を投稿し,そのうち一本は国際ジャーナルから改定後再投稿のリクエストを受けた.
|