研究課題/領域番号 |
19K01699
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
駒村 康平 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (50296282)
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研究分担者 |
四方 理人 関西学院大学, 総合政策学部, 准教授 (70526441)
渡辺 久里子 国立社会保障・人口問題研究所, 企画部, 第1室長 (30733133)
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研究期間 (年度) |
2019-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 貧困・格差 / 社会保障 / 家族構造 / シャープレイ値 |
研究実績の概要 |
本研究では、日本の所得格差や貧困の変動や決定要因について、①労働市場の変化、②家族の変化、③政策変化との対応から分析を行う。 研究第3年目には、日本、韓国、中国における家族形態と貧困の関係について考察を行った。現在においても東アジア諸国では、親もしくは子と同居することが貧困リスクへの対応として機能しているが、いずれの国でも高齢者における3世代同居は減少しており、年金等の社会保障制度が不十分である場合に高齢者の貧困は顕在化しやすくなると考えられる。家族に大きく依存していた日本の高齢者に対する所得保障制度は、公的年金の成熟化により大きく変化したが、高齢者の貧困が解消されたとは言い難く、家族扶養が低下したために生活保護制度に頼らざる得ない高齢者も増加してきたと言える(四方2021)。 日本の貧困変動については、住居形態別の分析も行った。民間賃貸に住む高齢者の貧困率は、低所得世帯が住む公営賃貸と同程度に高く、その状況は1985年から続いていた。民間賃貸は公営賃貸よりも家賃が高く、それゆえ、住宅費負担率も高い。今後、年金の所得代替率は引き下げられる予定であり、生活保障としての機能は脆弱化していく。年金から家賃の支払いができなくなる高齢者も増えていく可能性があり、住宅手当など新たな住宅政策の必要性が示唆された(渡辺2021)。 老後の所得保障の在り方については、公的年金の給付水準が低下する中、長寿リスクや認知機能低下リスクを踏まえた、就労継続や公私年金の連携から再構築を図る必要性がある。今後、公的年金を補うように私的年金が拡充されることになるが、行動経済学の知見に基づいて、ナッジを使った個人年金加入誘導、より積極的な資産運用への誘導が重要となる(駒村2021)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
日本の貧困動態について、家族形態や居住形態の変化から分析を行い、着実に研究成果をあげている。また、人口・社会構造の変化を踏まえた政策提言の論文を刊行しており、おおむね順調に進捗していると考える。
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今後の研究の推進方策 |
研究第4年目には、日本における格差・貧困について、厚生労働省「国民生活基礎調査」等の個票データを用いて、寄与度分解の手法を用いてその決定要因の検証を行う。寄与度分解とは、格差指標や貧困率の変化を、集団のシェアとグループ内・グループ間の格差に分解する方法や労働収入や社会保障収入などの所得源の変化によって分解する手法である。 日本において、この20年間に賃金格差の拡大や低賃金化が進んだにもかかわらず、所得格差や貧困率の変化率が比較的小さかった理由は、所得格差や貧困率の測定において用いられる可処分所得そのものが複合的な要因で決定されていることがあげられる。 しかしながら、これまで日本の所得格差や貧困率の分析において用いられてきた寄与度分解の分析手法では、年齢や家族構成などの一要素による分解しか行うことができず、複数の要因について扱うことはできなかった。 そこで本研究では、分位点回帰等の手法を用いることで、単一の要因ではなく、労働市場、家族構成の変化、政策変化の要因など様々な要因を用いた分解を行い、それらの要因の秤量を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
国際学会への参加を予定していたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって、開催が中止されたこと等により、次年度使用額が生じた。本年度以降の学会参加費及びその旅費に使用する計画である。
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