本研究では公的医療制度に絞った世代間格差と個人貯蓄勘定化に関する分析を行うことを目的としている。我が国の公的年金に関してはマクロ経済スライドなどある程度、抑制の仕組みも導入されつつある。一方、公的医療については、公的年金ほどの抑制策は導入されていない。本研究では医療費の抑制に一定の効果が期待できる医療の個人勘定について研究を行った。最終年度は、研究全体の総括を主に行った。 公的医療制度がもたらす世代間格差については、世代間格差の分析で多く用いられる世代会計の手法を応用した。一方、個々人の医療貯蓄勘定を念頭に置いた公的医療改革については、実際のレセプトデータをもとに分析を行った。本研究では、著者が関わった、国立社会保障・人口問題研究(2004)の調査、千葉県の政府管掌健康保健(政管)レセプトデータをもとに分析を行った。本研究で用いたデータの調査の対象は1997年から2001年の間の千葉県のある地域の政管レセプトデータであるが、個人の医療費を追えるデータセットとなっている。そのデータセットをもとに、個人単位で医療費をパネル化することによって、個人の前の年にかかった医療費とその年にかかった医療費のクロス表が作成できる。その医療費の遷移確率を基に医療貯蓄勘定についての分析を行った。 研究期間を通じて実施した推計結果について簡単にまとめる。医療費の推移確率(医療費ゼロの場合を除く)に基づくシミュレーションでは、医療貯蓄勘定が黒字となる確率は52.3%となった。一方、医療費ゼロのケースを含むレシートデータに基づく医療費の推移確率を用いた場合、この確率は89.2%である。 さらに、80歳までの医療貯蓄口座のシミュレーションの場合、黒字になる確率は69.6%となった。なお、これらの研究を詳細に分析した論文は学術誌Japan and the World Economyに掲載済みである。
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