静学的CGE(数値解析的一般均衡)モデルと動学的CGE(数値解析的一般均衡)モデルの融合に成功し、かつ、その融合モデルに最新のデータを利用してパラメータ値の更新を行った。具体的には2023年7月発表の『中長期の経済財政に関する試算』(内閣府:2023年7月 経済財政諮問会議提出)に基づき、将来に関する経済見通しを前提とした状況をモデル内で仮定した。さらに、将来の人口構造についてもアップデートが行われた。具体的には社会保障人口問題研究所が2023年に発表した最新の将来推計人口から将来の人口構造をアップデートした。そこでは死亡確率、出生率共に中位の値を利用して、モデルに反映させた。ここで新たな研究上の貢献は今まで男女合計数で分析していたモデルを男女別に分けて分析を行ったことである。人口構造も男女別に分けて分析したことから、モデル内で仮定される家計の効用関数も従来型から大きく改め、男女別の効用関数を前提として家計の効用関数を定義した。具体的には男女両者の効用関数をウエイト付けし、家計全体の効用関数を定義した。これによって、男女間の違いがさらに鮮明にされ、女性労働の影響を包括的に分析できる枠組みを構築できた。 また、研究課題を実施している期間においてはCOVID-19の影響が無視できない。そこで研究の派生として、このCOVID-19の影響をもここで構築したモデルを援用することによってその影響を分析した。そこでの研究成果は以下の通りである。第一に、COVID-19は日本の総GDPを4.21%減少させ、厚生上の損失額は15.4兆円近くにまでになる。一方、政府の経済支援策は総GDPを1.39%増加させ、厚生上のプラスの効果は2.7兆円を超えたと考えらる。この経済支援策は実際の日本経済をある程度下支えし、総GDPの減少幅を2.91%までで縮小させ、厚生上の損失額も13兆円弱まで低下させた。
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